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おしかけ猫にcollar?
2017年9月18日
さすがにアフリカに行く事はなかったが、福岡経由で家に辿り着いた頃には0時を過ぎていた。
レンタル契約と理解していたはずが、蓮の気持ちが自分にないとわかり、逃げ出してしまった。大人気ない行動だったし、気持ちが落ち着いた今では、蓮を傷付けてしまっただろうと後悔している。
数ヵ月ぶりの我が家のベッドだったが、筧はなかなか寝付くことが出来なかった。
遠くに聴こえる音は何だろうと夢うつつに考えていると、今度は耳元で携帯の呼び出し音が鳴った。
「はい?」
「俺だ。居留守使ってるのか?」
「居留守って、え?」
「早く開けろ」
それだけ告げると金城は電話を切ってしまう。
先程の音はチャイムだったのかと、筧はベッドから抜け出す。
昨日に引き続き金城に起こされるという状況に、深いため息がこぼれた。
ドアを開けるや金城はズカズカ踏み込んで来る。
「おい、何してんだ早く入れ」
金城の声に姿を現したのは蓮だ。不安そうな表情で筧を見上げる蓮に、内心の動揺を隠し入るよう促す。
二人がソファーに落ち着いたところで、訪問理由を確認すると「お前が蓮の希望通りにしろって言ったんだろ」と金城に睨まれる。
「確かに。ですがここに弟はいませんよ」
思わずムッとして言い返した筧に、笑いを堪えながら金城は立ち上がった。
「俺は忙しいから帰るが、ちゃんと二人で話し合えよ」
まさかこのタイミングで金城がいなくなると思っていなかった蓮は、何をどう説明すればいいのかプチパニックに陥った。
筧の固い表情に『昨日はHIROに近付くために筧さんを利用したみたいになっちゃたし。今も許しも得ずに押し掛けてる。もしかして僕、HIROのストーカーって思われてる?』そんな風に考えて、焦りが募る。
「筧さん、違うんです。僕HIRO に会いに来たんじゃないです」
じゃあ何しに来たんだ?
そんな筧の疑問を読み取ったのか、蓮は複数枚の紙を取り出した。
「あの、この部分見てください」
筧が見せられたのは、誕生日に金城がくれた手紙とレンタル契約書だった。
そして蓮が指差した部分に書かれているのは…。
「レンタルされたペットが望む場合に限り、引き取りも可能?」
筧がそれに目を通した時、こんな一文はなかった。明らかに後から書き加えられたものだ。
こんな一文を加えてまで、筧を訪ねて来たのは、何故なのか?
「僕を引き取って下さい。お願いします」
震える声で蓮が頼んでも、筧は答えられなかった。
期待した挙げ句、弟との仲を取り持って欲しいと言われたら、平常心でいられる自信がなかった。
しかし蓮が告げたのは、筧への想いであった。
「僕、筧さんの事を好きになっちゃたんです。側に居たいんです」
本当だろうか?
真意を推し量ろうと覗き混んだ蓮の大きな目は、涙を湛えて潤んでいる。
細い肩を緊張に震わせ筧の決断を待つ様は、捨てられた猫のようで抱き締めたくなる。
「参ったな」
静かな室内に筧の呟きが吸い込まれていく。
暫しの沈黙の後、いつもの穏やかな表情で、筧は蓮に声を掛けた。
「蓮…、首輪買いに行くか?」
その誘いに大きく頷いた蓮は、筧の胸に飛び込んだのであった。
※ ※ ※ ※ ※
メール着信を知らせる音に金城は携帯を開いた。
彼が弟のように可愛がっている男からだ。
タイトルはなし、本文に一行。
【レンタルキャット引き取ります❗】と書かれていた。
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