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第1話
――――若い女性秘書を連れ回していると、愛人かと勘ぐられるのが煩わしい。
総務にいた間部征爾が秘書課に引っ張られた理由は、確か先代社長のそんな言葉が発端だったはずだ。
あれから二十年。最近ではちらほら見かける男性秘書だが、当時はかなり珍しく、そのおかげでうまく運んだ商談もいくつかあった。
『背が高くて、ハンサムな秘書さん』
そう呼ばれてご婦人方にもてはやされた間部ももうアラフィフになり、今は自分より十五も若い二代目社長の専属秘書だ。
独身でイケメンの青年社長とは丸一日一緒に過ごしているが、愛人ではないかと勘ぐられたことは、幸い、まだ一度もない。
「……あ、んん、んっ……んんんッ!」
後孔を割って入ってくる肉棒の大きさに、間部は顎を反らして喘いだ。
「気持ちよさそうだな、間部」
大きく張った亀頭に狭い道を押し広げられて動きが止まると、それを叱咤するように、下から伸びた手が乳首を抓った。ひん、と情けない声を漏らして、間部は男を咥えた腰を跳ね上げる。
「社長……!」
抗議の声を上げる間部を下から笑って見上げるのは、上司の本郷大樹だ。
三十代半ばになる大樹は、品の良い顔立ちに筋肉質な長身を持っていて、どこへ行っても男女を問わずによくモテる。
なのに、性欲解消のため週に数回ホテルに連れていくのは、熟年の男性秘書である間部なのだ。
「あ、あん……さ、わらないで、ください……」
すっかり動きの止まった間部の乳首を、寝そべった大樹が両手を伸ばして弄ってきた。ぷくりと膨れた柔らかい突起を指先で弾かれると、宙に浮いた間部のペニスがプルプル震える。
男が乳首なぞ揉まれても、と失笑を漏らしたのは、果たしていつのことだったか。あの頃の間部は、まだアナルセックスの奥深さをほとんど知らなかった。男の乳首がこんなに感じるようになるとも。
年齢と共に遠ざかるペニスの快感に反して、乳首や尻は弄られるほどにどんどん感度を増していく。大樹とこういう関係になって数年が経過するが、最近では射精すらせず、尻に大樹の極太ペニスを突っ込まれて女のようにイクだけの日も少なくない。
それは長年の結婚生活でもついぞ味わったことのないような、病みつきになる悦楽だった。
「間部。休んでないで、早くいれてくれ」
乳首を悪戯する大樹の手を嫌がって払いのけると、今度は尻をパンパン!と強く叩かれた。三日ぶりの逢瀬で若い大樹は待ちきれないらしい。年の差を考えて少しは手加減してくれと、毎回のように言っているのに、ベッドに入ると大樹はいつもこうだ。
「くぅ……ンッ」
浮き上がった腰を再び下ろしていくと、甘えるような鼻声が漏れた。抜けかけた大きな怒張が、口を噤もうとする窄まりを押し広げて、再び入ってくる。
あぁ……と間部は悩ましい溜息をついた。
大樹の逸物は硬くて逞しいだけでなく、並外れて大きい。間部の最盛期よりも二回りは確実にある。
こんなモノを、自分から尻に収める日が来るなんて思いもしなかった。しかも五十路を目前に控える立派な中年になって、これほど若い相手から女の悦びを教えられることになるとは。
「あ……あ、あ……はっ……」
「グズグズしてると下から突っ込むぞ」
騎乗位でゆっくり挿入しようとする間部を、焦れた大樹が脅すように揺すった。
「待って下さい。今、いれますから……!」
精力旺盛な大樹に主導権を握らせると、明日腰が立たなくなってしまう。間部は覚悟を決めて巨大な凶器の上に尻を下ろしていった。
「……ぁぁあああぁぁ!……っ」
悲鳴のような声と共に一気に根元まで飲み込んで、間部は肩を揺らして息を継いだ。
太く逞しい陰茎に腹の奥まで貫かれて、気が遠くなりそうだ。脈打ち、時折体内でぴくぴく跳ねる感触が生々しい。
来年五十になろうという尻穴の中で、勿体ないほど若々しい怒張が息づいていた。
「間部……気持ちいいよ」
引き締まった腹の上に座り込んで荒い息をついていると、大樹の満足そうな声が聞こえた。その声の色っぽさに、間部の下腹はさらに熱くなる。
「私も、気持ちいいです……」
収めたばかりでまだ苦しいが、臍の下からじわじわと熱が高まってきた。下から伸びた大樹の手が、その熱を駆り立てるように間部の勃起を撫でさすった。鈴口に滲み出てきた先走りを指先にとり、塗り広げるように亀頭を撫でる。
小さく呻きながら間部が尻を締めると、その断続的な締め付けを愉しむように、大樹の指は先端から裏筋を優しく愛撫した。
下腹がきゅ、と疼くと同時に、間部の屹立が大樹の指淫から逃れてプルンと反り返った。
「社長……」
大きすぎる大樹の肉茎がまだ馴染んでもいないのに、そんなに弄られたら尻を振りたくなってしまう。
咎めるように呼んだ間部に、大樹は不満そうに口を尖らせた。
「大樹さんって呼べよ。仕事じゃないんだから」
不意打ちのように子供っぽい表情を見せた愛人に、間部は思わず苦笑を漏らした。
大樹との付き合いは、先代社長の秘書だった頃から数えて二十年になる。
思春期にはかなり難しい少年だった大樹を知っているせいで、代替わりして上司と部下の関係になった今も、気を抜くとうっかり昔のように『大樹さん』と呼んでしまう。
何年か前、先代の社長であった大樹の父が急逝したときには、間部が半ば父親のように大樹を支えた。若すぎる新社長に世間の風当たりは厳しかったが、秘書として長い実績を持つ間部が丁寧に対応し、二人で困難を乗り越えてきた。
それがやっと落ち着いたかと思った頃、今度は間部の妻が突然の病に倒れた。満足な治療を受けさせる時間さえ待たずに、妻はそのまま帰らぬ人となってしまった。連れ合いを失って悲嘆に暮れる間部を支えたのは、今度は大樹の方だ。
すっかり生活が乱れ、酒に溺れて正気を失っていた間部は、ある朝ホテルのベッドで目を覚ました。裸の間部を抱きすくめて眠っていたのは大樹だ。大樹は間部に人肌の温もりを思い出させると同時に、男同士の情交の味を教え込んだ。それ以来、この関係は続いている。
だが、互いの年齢を考えれば、そろそろ間部の方から距離を取るべきだった。
「……私は、お仕事だと思っております」
「なんだって」
大樹は男盛りの上、成長を続ける企業の経営者だ。浮いた噂も聞かないが、そろそろちゃんとした家庭を築くべきだろう。
一方、間部は妻を亡くして子もおらず、定年までの年数を数える方が早い年齢になってしまった。このまま関係を続ければ、どんどん大樹に依存していってしまうのは明らかだ。
別れ際に捨てないでくれと取り縋るのは、うら若い美女でもみっともないものだというのに、五十路男では笑い話にもならない。
「……だったらこれも、秘書の務めだって言うのか」
大樹が不機嫌そうな声を出したが、間部はそれを躱すようににこりと笑って見せた。
「……ええ、秘書としてのサービス残業のようなものです」
そうとでも思わなければ、いつまでも大樹にしがみついてしまいそうだ。
間部のその言葉を聞いた大樹が、剣呑な表情を浮かべた。
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