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第2話
「……ぅあ、あ、……社長……っ、社長……!」
狭く敏感な場所を乱暴に擦られる感触に、間部は切ない泣き声を上げた。大樹の胸に両手をついて、低い四つん這いの姿勢になった間部を大樹の怒張が下から抉ってくる。
張りつめた大きな亀頭が肉環を出入りするたびに、ぐぽ、ぐぽ、と聞くに堪えない厭らしい音が部屋に響いた。事を始める前に入れられたローションがすべて掻き出されて、内股がトロトロに濡れている。
「もっと膝を開いて腰を下ろせよ。奥まで思い切り突っ込んでやるから」
息も乱さぬ大樹の要求に、間部は言葉にならない声を上げ、首を振って拒絶した。
あまり奥を責められると、腰が砕けて動けなくなってしまう。それが困るから、主導権を握れる騎乗位をわざわざ選んだというのに。
「も……と、ゆっくり……っ」
乱暴な突き上げにも慣れた体は反応しているが、あまりに激しい性交は翌日に響く。もっと穏やかに、優しいセックスをしようと誘う間部に、大樹は意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんだ……間部君は、そんなにゆっくり前立腺責めしてほしいのか」
甘さのない低い声に、間部はひやりとする。
確かに、今とっている体勢ではちょうど間部の前立腺に大樹の雁が当たっていた。そこを揺さぶられて、間部は悲鳴のような嬌声を上げる。
「ち、が……」
「たまには上司として、秘書の要望にも応えてやらないとな」
拒絶の言葉を発して逃げる暇もあらばこそ。
大樹は間部の腰を掴んで逃げ場を奪うと、堂々たる牡の武器で間部の浅い場所を執拗に力強く責め始めた。
「……社、長!」
詰るような怒りの声も、身を離そうとする抵抗も、それほど長くは続かない。
熟れた肉壺の中を勝手知ったる若い牡に擦られ、腹の底から湧き上がってきた快感が間部の全身を毒のように回っていく。
「あぁ!……あぁあ!……あ、いきそう……っ、イキま……す……!」
力をなくした間部の陰茎が、ぺちぺちと内股を叩いた。
体内の前立腺を大樹の巨根に責められると、射精する代わりに深いドライオーガズムに陥ることがある。女の絶頂とも言われるこの空イキは、一度入り込むと射精がない分何度でも高みに昇りつめて、それこそ精根尽き果てるまでイキっぱなしだ。
前にはそれほど頻繁でもなかったのだが、年齢と共に前立腺が腫れてきたのか、それとも尻をすっかり開発されてしまったのか、女のように啼かされることが多くなってきていた。
ドライの快感は、妻とのノーマルなセックスでは味わったことのない、麻薬のようなものだ。羞恥と背徳感とに苛まれながら、間部は浅ましい娼婦のようにもっともっとと求めるのを止められなくなってしまう。
その大きな波が、もう目の前まで来ていた。
「イくぅ……い、い、……お尻、気持ちいい……そこ、いいぃ……!」
恥もプライドも投げ捨て、自ら尻を振って昇りつめようとした、その直前で。――――大樹が突然動きを止めた。
「しゃ……ちょう……」
雁の部分だけを埋めたまま、大樹は動くのを止めてしまった。
物足りなさに自分から肉棒を出し入れしようとしたが、腰を掴んだ大樹の手がそれを許さない。生殺しにされた間部の屹立からトロリと我慢汁が零れた。
「これが仕事だって言うんなら、間部。明日のスケジュールでも言ってもらおうか」
「は……?」
耳を疑うような言葉が大樹の口から吐き出された。
「スケジュール管理は、秘書の大事な仕事だろう。言わないと動いてやらないぞ」
どうやらサービス残業だと言ったことを相当根に持っているらしい。
そうでも言わねば割り切ることができない間部の心情を、若さも地位も持ち合わせた大樹には察することもできないのか。
腹立たしくはあったが、今更『大樹さんが好きでホテルに来ているのだから、思う存分イカせてください』などと言えるはずもない。
半ば意地になって、間部は記憶を辿った。
「明日は十時から、開発部との会議です」
予定は全て頭に入っている。手帳を見もせず答えると、大樹がゆっくりと動きを再開した。
張りつめた亀頭で内側の壁を擦り上げるように、浅い場所を何度も往復する。
腰の奥からせりあがってくる喜悦に、間部の声は徐々に冷静さを失い、掠れ始めた。
「……十一時に会議が終わった、後は……は、十二時から、N社会長との会食……、……その後、社に戻って――――……ん、んんぅッ!」
昂ぶりきったところで寸止めにされた体は、与えられる悦楽を飢えたように貪る。
浅いところをゆっくり単調に往復されるのは、よく考えれば間部が一番弱いやり方だ。甘美な痺れに鼻声が漏れ、掴んで固定された腰がもどかしく震えた。尻の中の牡を強請るように締め付けてみるが、大樹は眉を少し寄せただけでいつもの性急さを発揮しようとしない。
「社に戻って、それから?」
無情に先を促す大樹の声に、間部はふわふわと定まらぬ声で予定を続ける。
「さん、時から合同会議……は、あ……あ!……新工場予定地、の視察ッ……く、ぅ!」
明日の予定を思い描こうとする瞼の裏を、真っ白い閃光が何度も弾ける。涙が滲んで頬を伝った。
軽い絶頂を味わう間部をさらに追い詰めるように、大樹の先端がちょうど好い場所をグリグリ擦り上げた。
「ああ!、ああ、あ、あ……!」
「そろそろ設計士とも詰めた話をしたいな。明日の視察の後に時間を取れるか」
間部が涙を流して乱れているというのに、乱れさせている大樹は平然とした声で予定の変更を告げてくる。
間部は首を横に振った。――――もう、今は何も考えられない。
「む……り……ッ」
くぱ、と開いた鈴口から透明な蜜が糸を引いて零れ出た。
下腹がきゅっと捻れて締まるような、甘く苦しい快感に意識の全てを持って行かれる。背筋から体が浮き上がっていくような高揚感。立て続けに襲ってくる痺れるような疼き。
もう、明日の予定のことなど、考えられるはずがない。
「だ、め、だ……ッ」
腰が勝手に揺れて、高みに高みにと昇りつめようとしてしまう。狙い澄ましたように亀頭に前立腺を擦られるのが堪らなく気持ちいい。
このままイキたい。大樹の逞しい肉棒を呑み込んで、思い切り叫びながら昇りつめたい。
だが腰を掴んだ大樹の手が、このまま絶頂へと昇り詰めようとする間部の後孔を押し広げた。杭のように太い大樹の幹が、その中にずるずると押し込まれてくる。
「そこを何とかして捩込むのが、秘書の腕の見せ所だろ」
「あ!、あ!……ぅあああ――ッ……!」
言葉と共に、大樹の長大な逸物が余さず間部の後孔に捩込まれた。圧倒的な質量に、ローションの残りが滲み出てくる。
「……ふ、かい……ッ……ッ」
ガクガクと震える間部の膝をさらに左右に開かせて、長さも太さもある怒張が間部の体内を荒れ狂う。
腹の奥にある襞を突き上げられると、間部の意識は目眩のような快楽の渦に投げ出された。辛うじて踏みとどまっていた崖の縁から、底なし沼のような悦楽の中へ放り出されて沈んでいく。
「……ああぁッ!……無理、もう無理……腰が、とけ、る……!」
膝立ちを保てなくなって胸の上に崩れ落ちた体を、起き上がった大樹は後ろに倒した。
そのまま体勢を変えてのし掛かり、間部の足を抱え込む。今度は正常位で、激しく肌を打つ乾いた音が部屋に響いた。
「……これも仕事か、間部ッ……こうやって、ケツに突っ込まれてメスイキするのが」
腰を打ち付けて責め立てる大樹が、柔らかくなった間部のペニスを手にとって扱いた。
大きく股を開いて若い男を受け入れる間部の体は、まだ崩れてはいないが若くもない。その尻の中に、若々しい精力に満ちたペニスが突き入れられている。
大樹が深く腰を入れて中を掻き回すたび、抑えきれない声とともに、柔らかくなった自分のモノがぴくぴく震えて、透明な粘液を滴らせるのを間部は見た。
「随分と仕事熱心な秘書だな、ええ!」
淫らさを揶揄されても、何も言い返せない。
年を取り、男として枯れていくのと同時に、間部の体は女へと変貌していくかのようだ。若い暴れ馬のような大樹に犯され、愛液を垂らして悦びを享受する。
日を追うごとに、年を取るごとに、淫らになっていく。これが秘書の仕事だというなら、間部ほど仕事熱心で出来のいい秘書はいないだろう。
「気持ちいいか……言えよ……!」
最後の頂に向けて、大樹の動きがますます激しくなった。硬くて逞しいペニスに腹の中を突きまくられて、理性が焼き切れる。
間部はあられもない声をあげて叫んだ。
「……イイ、ッ……イイです、だいきさん……ッ……だい、き……」
やっと自分を名で呼んだ間部に煽られ、大樹も取り繕っていた余裕を失った。
「……征爾ッ……!」
「……イク、イ、クッ……だいきさ……もう、イクぅッ……アァ――ッ!……!」
間部は両手を伸ばして若い体に縋り付き、声を嗄らして快楽を叫んだ。
これほどの快感は、もう互い以外と共有することなどありえない。身も心も繋がった最上のオーガズムだ。
「イケよ!……ほら、メスになっちまえ!……せいじ、あんたは俺の女だ……俺だけのッ……!」
縋り付いてくる手を大樹は捕らえ、指と指を絡めて握った。
「中に、出すぞ……ッ」
正気が少しでも残っていたら、間部は嫌だと拒絶するはずだった。中に出されると、後の始末が大変なのだと。
だが、悦楽に狂いきったときの間部は、そうは言わない。
「……出してください……腹の奥に、だいきさんのザーメン……ぃい、ぁああ、あ、あ――ッ……アァ――――ァッ!!」
「……ッ……!」
全身を跳ね上げて叫びながら、間部の両脚が大樹の腰を挟み込み引き寄せた。
体内の肉棒を締め付け、ペニスからメスイキの粘液をまき散らして、間部はメスの絶頂に昇り詰めた。
「くぅ……!」
四方から締め付けてくる熱い肉壁の感触に、大樹もまた腹の底から呻きを漏らした。間部の体は貪欲で、昇り詰める時には必ず大樹の精を搾り取っていく。
間部の中に体を埋めてともに果てる瞬間は、最高に充実していた。本当は毎日でもこうして体を合わせたいが、年上の恋人を気遣って我慢しているのだ。どんなに長い間、大樹はこうやって自分を抑え込んできただろう。
少年の頃に一目惚れしてから、ずっと大事に温めてきたこの想いが、やっと通じたのだ。それを『仕事の延長』などという言葉で片づけられるのは我慢ならなかった。
好きだから、惚れているから、間部を自分のものにしたい。間部の方も、本当に仕事だと思っているならここまで付き合うはずがない。それなのに十五も年上の恋人は、なんだかんだと理由をつけて距離を取ろうとするから、大樹はいつでも必死でそれを追いかけねばならない。
「好きだ……征爾……征爾!」
腕の中に閉じ込めて、その体を穿っているときだけ、間部と心が通じ合っていることを実感できる。
身を屈めて唇を奪えば、人肌を恋しがるように間部の舌が大樹のそれに絡みついた。
「わたしも……」
全力疾走したような荒い呼吸の合間に、掠れた間部の答えが返ってきた。
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