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第36話 切なさの涙の数だけ、共に夜を越えていこう

 僕は慶二の耳元に、こう『お願い』したのだった。 「実は……ベッドシーンがあるんだ。ちゃんと慶二と結ばれてから挑みたいから、優しく教えて。だから……ねっ?」  最初はベッドシーンに目くじらを立てた慶二だけど、今はただ、僕の素肌に溺れてる。  二人とも生まれたままの姿になって、慶二は、触れない所が一つもないようにとでもいうように、僕の身体に丁寧に口付ける。 「っあんっ」  優しい感触にぼうっとなって浅く呼吸をしていたら、不意に胸の尖りを甘噛みされて、身体が跳ねる。  全身にキスし終わった慶二は、僕の分身を見下ろして口角を上げた。 「歩は、先っぽが感じるんだったな」 「あっ!? やめ、駄目、汚いぃっ」  慶二が躊躇いもなく、透明な蜜を零していた分身の先っぽを口に含む。  中でぬるぬるの舌がぬめって、先っぽを舐めたり吸ったり、頬の内側で擦ったりして、虐められる。 「は・ん・んんっ・やぁっ」  一番敏感な場所を未知の快楽で弄られて、僕は気持ち良過ぎて、涙をじわりと滲ませた。   「ア・ア・それ駄目、イっちゃう……!」  先っぽを口で責められながら、余った幹を扱かれると、とんでもなく気持ちいい。  自分だけがイかされる焦りに、僕はグッと下腹に力を入れて我慢した。筋肉の動きでそれが伝わったのか、慶二が顔を上げる。 「どうした、歩。何度でもイけ」  事故対応に追われて髪を切る暇もなかったのか、いつもは整ってる前髪が長めに伸びて、ハラリと数本、乱れて額にふりかかってた。 「慶二、髪……」 「ん?」 「伸びてる」 「ああ、切る余裕もなくてな。ボサボサですまない」 「ううん。すっごく……色っぽい」  慶二が、目尻に笑い皺を刻んだ。これも、久しぶりに見る、僕の好きな慶二。  分身が熱を持って、きゅんきゅんと疼いた。 「歩は髪を上げたから、表情が見えていい眺めだな。顔が歪むのが、堪らなくセクシーだ」 「んっ……」  這い上がってきて、耳元で囁かれる。僕の大好きな、落ち着いたバリトン。  限界だった。 「イき・そ……っ」 「歩は、声フェチなのか? 耳元で喋ると、感じるんだな」  耳に口付けて直接言葉を吹き込みながら、ゆるゆると扱かれる。 「あっ・はぁん、慶二の、声、だけっ」 「そうか。他の男にされても、こんなにするんじゃないぞ。もう、イきそうだ」 「ア・イ・イイっ・慶二・イっく……!!」  とどめに、甘く吹き込まれる。 「愛してる。歩」 「あっあ・もう・駄目っ・あぁん・ヤァ――ッ!!」  勢いよく、白濁が薄い腹筋の上に散る。僕は夢中で慶二の項に手を回して、引き寄せた。するとそのまま、唇が合わされる。  身体を痙攣させてイきながら、更に粘膜を探られる甘い責め苦に、僕はくぐもった吐息を漏らす。 「んんっ・は・あ……」 「歩。綺麗だ」  唇が離れると、引き出された舌をしまい忘れて、しばらくチロリと覗いていた。  慶二が僕の出した精液を指の腹で掬って、後ろの皺を伸ばすように丁寧に塗り込んでいく。掬っては塗り、掬っては塗り。  そのもどかしい快感に、僕は硬く目を瞑って喘いだ。 「あ・慶二……もっとっ」 「本当に強請り上手だな」  くつくつと笑われるのが、恥ずかしいけど、耳に心地良い。  指が、グッと入ってくる。  二回目だけど、異物感に慣れる事はなかった。浅く、はくはくと息を吐く。  内部で指が蠢き、この(えつ)に慣れる事もなかった。 「アッ! んっ・あ・アァッ」  内部の一点をスベスベの指の腹で撫で回されると、無意識に腰が動いちゃう。  二本目の指が入ってきて、バラバラと互い違いに動いてそこをねちっこく責められた。 「け・じ・それっ・だめぇっ」 「気持ちいいだろう?」 「()過ぎて……おかしく、なっちゃうぅっ」  二本の指で突かれると、背筋を弱い電流が走ったように快感が頭の天辺まで抜けて、僕は大きく仰け反った。  意志とは無関係に、後ろの孔が、慶二の指をキツく緩く締め上げ始める。  何これ、僕の身体が、僕のじゃないみたい……。 「もう良いか?」 「うっ・うん、慶二、()れて……っ」 「可愛い事を言うな。痛いって泣いても、抜いてやれなくなる」  慶二も、余裕のない声で言う。  最初の時と違って、ゆっくりと抜かれたから、そんなに不快感はない。  代わりに、M字開脚させられ、圧倒的な質量が熱く内部を満たした。 「あ、はぁ……慶二の、太くて、おっきい……っ」  狙って言ってる訳じゃなく、苦しくて思ったままを言ったんだけど、言った途端、内部の質量が更に増す。  苦しさも増したけど、慶二も感じてるんだって分かって嬉しかった。 「……挿入(はい)った。動くぞ」  ゆるゆると、結合部を擦り付けるようにして動き出す。  セックスって激しいイメージしかなかったけど、ギリギリまでゆっくりと引き抜かれるぬめる快感に、僕は顔を歪めた。  逃したくなくて繊細な柔肉のリングに力を込めると、先っぽの膨らみに引っかかって、慶二の精悍な頬も歪む。 「こら、歩。そんなに締めるな」 「だっ、だって……抜こうと、する・からっ」 「安心しろ。抜かない。味わえ」  今度は反対に、ゆっくりと挿入(はい)ってくる。  顔中に口付けながら、何回か繰り返されると、痺れるような甘い疼きが、胎内に集まってくるような感覚があった。  思わず、言葉が口を割る。 「あ・は……や・何かクる、イく・イくっ・もっ……ヤアァアアア……!」  その瞬間を待ってたように、慶二が大きく注挿し始めた。前立腺を擦られる抽象的な感覚と、分身を扱かれる直接的な快感に、理性が千切れ飛んでいく。 「アァン・ぁぁっ・ァア……!」  僕はもう意味のない喘ぎだけを解放して、ガクガクと揺さぶられた。  膝頭に両手を当てて自分で足を開いて腰を振り、ひたすら絶頂を目指す。  胎内の中心に集まった熱が、パァンと弾けるような感覚があった。 「あ――……っ!!」  身体中がポンプになったみたいに、ドクリドクリと溢れる精液の感触が生々しい。   慶二も、強く三回、僕のお尻に腰を打ち付けた。 「んぁっ! は! あんっ!」  動きに合わせて、声が上がっちゃう。きゅうきゅうの内部に、溢れるほどの熱い精液が大量に注ぎ込まれた。   「愛してる……歩。俺のものだ」  バリトンがいつもより熱を帯びて、情熱的に囁かれる。  僕は収縮する深い快感に、まだ酔っていた。  これが……愛するっていう事。魂が抜けたように、息を弾ませて肩を喘がせていたら、何度も慶二が愛してるって囁いて、キスをくれる。  生理的なものでなく、不意に涙がこみ上げた。  正体も分からぬまま、切なさと苦しさと胸の痛みに、嗚咽する。 「どうした、歩。何を泣く」  慶二の熱い舌が、濡れた睫毛を舐めてくれる。 「分かんな、い……慶二が、愛してるって言うと、胸が痛い……」 「お前も、愛してるって言ってみろ」 「ん……慶二、愛してる」 「愛してる、歩」  唇が柔らかく触れ合った。触れ合ったそこから、涙の原因の何もかもが、伝って流れていくような感覚だった。 「あ……愛?」 「そうだ。愛は、解放してやらないと、身体の中で悪さをする。涙が出た時は、愛してるって言うんだ」 「うん……愛してる」  僕は慶二の広い背に手を回し、汗で滑るそこをゆるゆると撫でた。 「あんっ……」  ゆっくりと、(くさび)が抜かれる。一瞬、喪失感に喘いだけど、慶二がキスをくれると落ち着いた。  目尻に溜まる涙の粒を、綺麗でスベスベした親指の腹で、拭われる。  慶二の指、好きだ。 「悦かったか?」  でも目元で悪戯っぽく微笑みながら訊かれて、真っ赤になってしまう。目を逸らして、ぽしょぽしょと呟いた。 「き、訊かないでよ……」 「おや、今度は素直じゃないな」  指の甲で、頬を撫でられる。  唐突に、慶二が言った。 「新婚旅行、何処に行きたい?」 「え?」 「平良から、スケジュールを聞いた。二週間以内に、式を挙げて新婚旅行に行こう。歩の好きな所、何処でも良いぞ」  瞬間、ポンと頭に、行きたい所……というか、やりたい事が浮かんだ。 「慶二と、祭りの太鼓、叩きたい! ゲーセン!」  慶二は、困ったように眉尻を下げた。 「そういう事じゃなくてだな、新婚旅行の行き先を……」 「じゃあ、秋葉原!」  しばらく慶二は戸惑っていたけど、やがて目尻に、優しい笑い皺を刻んだ。 「……そうか。歩が映画に出演したら、もう国内のゲームセンターなんか、行けなくなるかもしれないな。分かった。秋葉原のホテルのスイートを予約しよう。式は、新宿バードランドのエントランスに、赤い絨毯を敷いて」 「わっ。それ、素敵」  両手を合わせて頬を上気させると、慶二がグイと僕の手を引いて起き上がらせた。 「んっ、慶二?」 「決まったら、もう一回だ。朝までお前を離したくない、歩……」  胡座(あぐら)をかいた上に向かい合って座らされると、自重で慶二が奥深くまで届いて、僕は背をしならせる。 「あっ・や・慶二……っ」 「嫌じゃなくて、イイの間違いだろう?」  身体の両脇に投げ出していた両手が取られ、指を絡めて握られた。  細かく律動するごとに、グッ、グッと掌に力がこもる。  掌から行き交う切なさに、僕は慶二の言葉を思い出して口にした。 「イイっ、慶二……愛してる」  その一言に、幾つもの愛してるが返ってきて、僕はまた切なさが溢れ出す。  そんなに言われたら……パンクしちゃう、慶二。  そう思いながら、僕らは何度も囁き合って、夜を越えていくのだった。 「愛してる……慶二」 「ああ。愛してる、歩」 Happy End. ※あとがきあり→

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