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第51話

単純なぼくは、いつもなら眠くて仕方ない5時間目以降の授業も、先ほどの蓮くんとの時間により今日は物凄く頑張れた。 突然当てられた英文だってスラスラ読めたし、苦手な数学も前に出て回答できたもん! 黒板から自席に戻るときだって、蓮くんと目があって……微笑んでもらえて。 自分で言うのもなんか変だけど……いい方向にばかり進んでいる気がするんだ。 だからこの時のぼくは、この後起こる出来事に何も気付いていなかったーー。 「もーっ! 隼人のばかっ!」 放課後になり数時間。帰宅部の人はとっくに帰り、残りの人達は部活や委員会に向かったため静まり返った廊下。 ぼくはそこを、クラス全員分のノートと学級日誌を運びながら歩く。 本来この役目は、ぼくではなく日直である隼人が行う予定だった。 「好きな番組の再放送があるからって、ぼくに仕事押し付けて普通は帰る……? ほんと、あり得ないっ!」 この場にいない相手への苛立ちを、思わず声に出してぼやいてしまう。 (早く済ませて、ぼくも帰ろ……) そんなことを考えながら、廊下の角を曲がった瞬間ーー ドンッ! 手にしていたノートをぶち撒け、その場に尻餅をついて転んでしまう。 (……あっ! 早く拾わなきゃ!) みんなのノートが汚れてしまわないよう、1冊1冊を確認しながら手に取る。 最後の一冊に手を伸ばそうとした時、ノートがふわりと浮かび頭上から声がした。 「ごめんなさい。怪我、してない?」 可愛らしい声のほうに視線を向けると……うちの学校とは違った制服を着た女の子が立っていた。 ノートを返してもらい、伸ばされた手をそのまま借りてぼくも立ち上がる。 「こちらこそ拾うのに必死で、すぐに謝れずにごめんなさい! 大丈夫ですか……?」 「ええ、ありがとう。……あっ、そうだ! 3年の教室って、この先であってるかしら?」 「うん。少し歩けば、すぐに見つかりますよ」 「ありがとう。ノート運び、頑張ってね」 (……えっ。この香り……) そう言って笑顔でぼくの横を通り過ぎてった彼女からは、蓮くんと同じ匂いがした。 世の中同じ香水を使ってる人なんてたくさんいるんだし偶然だ、と自分に言い聞かせて速足で職員室へと向かった。 ーーでもこの時、もっとゆっくりしていれば……今と違った未来があったのかもしれない……ね。

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