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第5話
『ダークローズ』に呼ばれていくと、僕より先に隆一さんが部屋にいた。
「やあ」
隆一さんが挨拶したけど僕は返事を返せなかった。隆一さんは紙のように白い顔をして枯れ枝のように痩せていた。
「元気みたいだね」
僕が黙って立っていても隆一さんはそれで満足らしく一人でしゃべり続けた。
「悪いけど少し眠らせてくれ。すごく疲れてるんだ。ちょっと休んだら出て行く。迷惑はかけない。だから……」
隆一さんの言葉を唇でふさいだ。初めて味わった隆一さんの唇は荒れて硬かったけれど、どこか甘かった。
僕たちは唇を重ねたままじっとしていた。
隆一さんの唇からはタバコの香りがした。
隆一さんが巻き込まれていることはきっと、まだ子供のうちに数えられる僕には分からないのだろう。
それは「やあ」と言われたら「どうも」と答える、それくらい明白な事実だった。
僕が唇を離した時、隆一さんは泣きそうな顔をしていた。大人のそんな表情を見たことはない。そんな表情を誰かが僕に見せたことはない。
隆一さんは僕の手を握って顔を伏せた。まるで祈るように、まるで懺悔するように。
僕はただ黙って、そこにいた。
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