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第6話
「あの日、俺が優斗 を呼び出して二人で天体観測しただろ?」
「あ、ああ」
「俺、あの時優斗に告白するつもりだった」
「……え? えええ~!!」
「なのに、お前が先に言っちゃうからさ……」
文 は心底無念と言わんばかりな表情と溜息だ。対する優斗は驚きの二波目に瞳がこれでもか、というぐらいに大きく見開かれ、心臓は激しく鼓動した。
「え、いや、うっそ!? だってそんな空気、お前全然出してなかったじゃん!?」
「……満天の星空の下に呼び出されたら、だいたいわかるだろ……」
「ええー!?」
「まあ、優斗ってニブイとこあるから、気が付いてないなって思ったけどさ……。優斗がいきなり告白してきたのには驚いた」
「あ、あれはさ、なんか良い雰囲気で、今ならいけるって思って勢いでさ」
「優斗は勢いでよく突っ走るよな。でも勢いでもなんでも、俺の事が好きなんだろ?」
「当たり前だろ! 好きじゃないなら告白なんて勢いだけでするはずないだろ!」
「俺が告白をするつもりでお膳立てしたのに、お前が勢いで横からかっさらったんだよな」
「うっ……す、すみません」
「だからさ、こうしてやり直しできて、気が済んだ。で、答えは?」
「え、あ、け、結婚って言ったか?」
「そうだよ、聞えなかった?」
「聞こえたよ。でも、結婚って……日本じゃ認められてないし、俺、こんな病気でさ」
優斗は悲しいのか嬉しいのか分からない感情が込み上げ、涙が溢れてくるのを止めようと歯をくいしばって耐えた。文はそんな優斗の顔をじっと見つめ、少し小首を傾げ優しく微笑んだ。
「正確には養子縁組な。俺の方が半年年上だから、優斗は俺の息子になるわけだけど。でも俺にとっては結婚して、家族ができるわけだから」
「家族……」
「そう、俺たち、もう長年一緒に住んでて家族みたいなもんだけど、ちゃんと籍入れて家族になろう。で、優斗は手術を受けてくれ。俺は優斗が元気になるのを信じてる」
「な、なに言ってんだよ! お前、なに言ってんだ!? なんでそんな面倒背負い込むんだよ!」
優斗はもう溢れる涙を止めず、文に叫んだ。自分はこんなおじさんで、病気でしょぼしょぼで。手術したって次の日元気に働けるようになれもしない。そんな面倒なヤツと結婚するなんて、そんなこと文にさせたくない。
「あのさ、優斗だけが面倒じゃないよ? 俺だって歳を取っていく。あちこち体にガタがくる。すぐ疲れるし、節々痛くなる。病気にもなるだろうし」
「文……」
優斗は病気になって、文に迷惑をかけ続けていると思い込んでいた。しかし二人とも同じ年齢で、同じように歳を重ねてきた。今回はたまたま、優斗が病気になったが、もしかしたら文だった可能性もある。
文は優斗に向き合って両手を取るとしっかりと握った。文の表情はいつものように穏やかで、優しい。優斗はじっと文の顔を見つめた。
「そしたら優斗は、俺と別れたくなる? 弱って思うように動けない俺とは一緒にいたくないか?」
「そんなわけないだろ!」
文が大変なら優斗はそのすべてを背負う。優斗は文が大好きだ。文が歳をとって病気で弱ってもそばにずっといたい。
「優斗が俺のことを想ってくれるのと同じぐらい、いや、それ以上なつもりで俺は優斗が好きなんだ。大事なんだ」
文は静かにそっと触れるだけのキスを優斗の唇に落とし、力強く抱きしめた。優斗は文の肩に頭を預け文の香りを胸にいっぱい吸い込む。
「……手術、受けるよ。文」
「うん」
「家族に、してくれ、文」
「うん」
「ヨボヨボになっても、僕を愛してくれ、文」
「喜んで」
「文、愛してるよ」
「俺も優斗を愛してる。指輪、用意してなくてごめんな」
「んなの、いらねぇよ」
「まあ、そういわず」
二人は幾千の星の下、しずかに見つめ合い唇を重ね合わせた。
二人とも、いいおじさんで、昔みたいに元気いっぱいってわけじゃない。この先、不安だらけだ。でも。
暗闇に迷う時、キミと言う輝ける星を見失う事はないだろう。そして、キミが暗闇に迷う時、必ずキミの輝ける星になるだろう。
end
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