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第11話 言えない [3]
翌朝。
早目に出社し、朝定食にありつこうと社員食堂へ。
眠そうな顔をした船山を見つけ、同じテーブルに座った。
新物のワカメの味噌汁か。とうとう冬から春に変わるんだなぁ、とジンワリしていると、頭上から土井の声が降ってきた。
「…お前らさー、俺に何か隠し事してない?」
ーーー!!
あ、バレてた。
船山、動揺はわかるがせっかくの味噌汁を吹くんじゃない。
「ごめん、土井ちゃん! お前に迷惑かけちゃいけないと思って…。」
「土井さん、このところ新しいプロジェクトで和食に掛り切りだったから、言い出しにくかったんです。ホントは1番に相談したかったんだけど…。黙ってて、すみませんでした。」
「いいけど。別に。ただ、社内の人間に言われたい放題なのは自覚してんの? 今だって、給水機の前で『あいつらクサイよな』て噂されてたぜ?まさか無自覚?!」
やはりクサイか…そりゃあクサイよな。
。。。。。。。
「土井ちゃん、一応聞くけど、臭うのは俺より船山だよな?」
「そうだね。服部さんは近づかなきゃ解らないレベル。臭うのは船山ー。」
だから言っただろ?徳用の薄手の手袋じゃあ翌日泣くって。
薬念(ヤンニョム)のニンニク臭は、何故だか異様なまでに手に吸い込まれるんだから。
自家製キムチの破壊力、船山は解ってないんだよなー。
昨日は一番ベーシックなペチュキムチ。ペチュって白菜の事ね。
「本格キムチ、今年も手伝うって言っておいたじゃない?俺、密かに楽しみにしてたんだぜ。」
自宅で朝食を済ませる土井は、緑茶の湯呑みだけを置き同じテーブルについた。
「土井ちゃん、今年はね、トロミ付けを白玉粉にしてみたんだよ。いりこと昆布の出汁取ってさ、糊にして。本場っぽいだろ。楽しみにしてろ?」
「なんだよ水臭い。言ってくれたら、ちょうど良い具合にアミの塩辛が仕上がってたのにぃ…」
エエエエエエエエエェェェェ!!!
「土井ちゃん仕込んでたの?アミの塩辛を!?えー!手に入らなくてイカで代用したのに…っっ!!」
「服部さん、俺、本場の…っ!本当のホンモノの味が食べたかった…」
泣くな船山っ!悔しい気持ちはよく分かるっっ
「俺を除け者にするからバチが当たったのだ!
ふわははははは♪」
土井の勝ち誇った高笑いが食堂に響き渡った。
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