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第11話 言えない [4]
「で?ブツはどうしたの?部屋に置いてちゃ暖房も点けられないでしょう?」
「…二階の角部屋。」
「あ。」
察しのいいやつは大好きだよ、土井ちゃん♪
新年会にお借りした空き部屋を、キムチの発酵が進む間お借りしたんだよ(もちろん会社にはナイショで)。
「せっかくアミの塩辛が有るからさ、もう一回漬けない?白菜。」
「え?俺はいいけど、保管場所有る?キムチ冷蔵庫でも無くちゃ、食べ頃のまま長持ちさせならないよ?」
いくら空き部屋が寒くても、発酵は進む。
「んーーー、熟成待ちの間に考えよう。」
「んだね。」
まもなく始業時刻。
食事を終えた社員達が、それぞれの持ち場に向かう。
カウンター席の片隅、悠々とタブレットを操作する男が聞き耳を立てていた事に、俺たちは誰一人気付いていなかった。
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