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第13話 仙道さんのおつかい 2
「今日は、栗原さんの誕生日なんだ。船山も知ってるだろ?栗原さん。」
総務の栗原さんを知らないものはいない。うちの会社の新人教育を担当する定年間際の男性社員だ。服部さん、よく誕生日を把握してましたね~。
「ああ!新人の頃お世話になりました。温厚なおじさんですね。いつも背筋がピンとしていて、和服が似合いそうです。」
新人研修の時、何か武道をしていたのかと聞いた奴がいて。そしたら、代々社長の家に仕える執事の家系で、護身術と茶の湯は嗜まれるとか。
「で、だな船山。仙道さん借りたから。」
はぁぁぁぁ?!また勝手に俺の部下を!!どうりで席にいないと思った…
「服部さん、俺の部下を勝手に使うのやめてくれません?上司は俺なんですっ!」
「仕事の指示なんか出してないよ~!先輩社員としてお使いを頼んだだけで。」
俺の部下なのに何を勝手に!と、ブツクサ言う俺を無視して、服部さんは話を続ける。
「あんなイケメンが、ケーキ屋で恥ずかしそうに買い物をするところ、見てみたくないか?お使いを頼んだのさ。駅前のレミーまで。」
…ぴくりと耳が反応する。
「あの、店内が白とピンクで飾られたレミーですか?」
「そう!やたらと凝った、メルヒェン~な名前のケーキが並ぶスイーツ屋のレミーさ。」
女子に大人気の店だが、俺らには敷居が高い。
アラサーリーマン野郎はメルヘンには縁遠いのだ。
『レミー』は、まるでデコレーションケーキのミニチュアの様な美しいおひとり様サイズのケーキを扱う、この辺りでは有名なケーキ屋。昨年売り出した"雪だるまのクシャミ~仲良しの子ウサギの贈り物、薔薇の雫をキラリと閉じ込めて~"とかいう商品名のフロマージュが雑誌に掲載されたりして人気が出たんだったかな。
「栗原さんの誕生日だから、レミーのケーキを10人分、折角だから栗原さんに選んでもらえるように、1個ずつ違うやつを選んでくれ、と諭吉1枚と共に送り出した。」
「…俺だったら舌噛みます。あ、恥ずか死するほど嫌だって訳じゃなくて、まどろっこしいじゃないですか。言えない。絶対言えない。あの店のケーキの商品名だけは…っ」
何をやってもパーフェクトな仙道さんが、ピンク色の店内で『すみません!"天使のお昼寝 アプリコットのふわふわベッドの昼下がり"をひとつと…』なんて買い物を…
うっっわーーー!!見たい!動画撮りたい(←!)
服部さん、GJ(ぐっじょぶ)!今すぐ追いましょう。
スマホと財布だけポケットに入れ、俺と服部さんもオフィスを抜け出した。
店に足を踏み入れると、奥のケーキのショーケースの前に仙道さんを見つけた。混み合う店内の贈答菓子の陳列棚に隠れ、俺たちは様子を伺った。
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