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第1話 何本入れたら イイですか?
「えーっ1本で?無理無理!!せめて2本でしょう?」
「いやいや、3本!!どう考えてもしっかり3本!!」
土井さん、声が大きいです!
服部さん、一応仕事中なんですから…
こっそりお二人に相談した意味、判ってます?
締め日には遠い今夜は、オフィスに居残っている人もまばら。
俺は、独身寮の先輩、土井さんと服部さんに、ふと頭に浮かんで俺を支配し始めた疑問を投げかけた。
些細な事。馬鹿か、忘れちまえ。と言われるのも覚悟していたけど、先輩達は案外親身になって聞いてくれた。
「若いうちはバカやったっていいさ。」
「そうだよ直感を信じろ!」
入社5年目の俺、船山昇(ふなやまのぼる)に、初めての部下が出来た。
中途採用、2歳年上の部下、仙道さん。
大手企業からの転職組で、着ているスーツもどこか張りが違う。今まで周りに居なかった、正統派のキラキラを振りまいている。
いままで独りきりだった作業も、一緒ならみるみる創造的なものに変わっていく。
部下とは言え、業界の先輩が身近に居る事で、今までには無い安心感が生まれた。
仙道さんは、自分の休憩の時間に、決まって俺のデスクにもカップを届けてくれる。
淹れたてコーヒーとスティックシュガー1本。
当たり前のように積み重ねられていく日常の光景。
戦利品のように誇らしげにペン立てに溜まっていくスティックシュガーを眺めていたら、ふと俺らしくない感情が流れ込んできた。
せっかくの思いやり、自分に都合がいいように捉えたっていいだろ?
この好意、無視できないし無駄にする気もない。
気付いてしまった欲求が、小さな付箋の様に脳裏に貼りついて剥がれない。
元々器用でない俺に、一人では抱えられない、耐えきれない衝動。
ひとりではどうしていいものか、皆目見当もつかない。
誰にでも聞ける話じゃないから、日頃からこの手の話題に抵抗が無い土井さんと服部さんがいてくれてラッキーだ。
「今更、金をかけて解決しよう…なんて野暮な事を言うなよ?」
「特別な道具なんか要らないよ、普通にある物で充分!」
「ただ、きちんとほぐさないと後で泣きを見るよ。覚悟しろ?」
「頃合いを見計らって。膨らみ具合をよく観察してれば大丈夫。やり過ぎはダメ絶対!」
頼れる二人のレクチャーは続く。
「甘いばかりじゃない、苦みも欲しいの?大人だねぇw
余裕があるなら、事前にギリギリまで焦がしてから放置しておく手もあるよね。」
「熱くなり過ぎると急に冷たくした時に壊れる。今まで大丈夫だったからって過信するな」
「初めての船山に凝った技は期待しないよ、フツーに、普通にw」
「あまり急ぐと固まるものも固まらない。じっくり、しっかりな!」
大丈夫!イケる!!と見送られ、俺は席を立つ。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。
服部さんが『3本!!どう考えてもしっかり3本!!』と断言したから、
手には、スティックシュガーを1、2、3本!
さあ、行くぞ!!
しつこく脳裏に貼りついていた衝動そして疑問…
『プリン食いてぇ…
プリンって、会社の電子レンジでも作れるのか?』
を解消すべく走る。
社員食堂の生卵と牛乳を分けてもらいに。
プリン♪ プリン♪ プリン♪ プリン♪ プリン♪…
<プリン編おしまい>
※肩透かしです。単にプリン食べたい会話がエロそうに聞こえたら本望ですw
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