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第2話 もう少しだけダメですか?

華美な訳ではない凛とした佇まい。 …ズルいだろ、そんなの反則だ。 誰もが知ってる超大手企業から、うちみたいなちっぽけな会社へ転職してきた仙道さん(部下だけど敬称略ってわけにいかないでしょ?2歳年上だし)は、噂の標的になっているらしい。 好きな食べ物?誕生日?趣味?好みのタイプ?週末の予定? そんなの俺に聞くな。俺が教えて貰いたいくらいだ。 一緒に働くようになって半月。 急ぎの依頼を請けているので、お互い作業ブースに篭りっ放し。今日だって、俺の昼休憩を取れたのが15時半。社員食堂のメニューも、ランチが終わりティータイム用に変わっていた。 おひとりさま?いいじゃないですか。 人の目を気にせず好きな物食べられるもんねー! …!!♪ 冷蔵ケースに俺の好物を見つけ、トレイに乗せた。 おひとりさま万歳。考え事だってし放題!!邪魔されない昼休み、最高ー! 大人ぁ~な近寄り難さがあるように見えて、意外と取っ付き易い。…相手に応じて対応を変えられるんだな。 型に嵌めようとするなら応じてやり、背伸びしたお子様と見るや厳しい顔はベールで覆う。タイプの違うやつと組まされても反発せず、尚且つ縮こまることなく自己主張できる。 しなやか、というのが当て嵌るのか分からないが、案外強い。ここまで押しても大丈夫かな?と力加減を探っている時にはその弾性が心地良い。 心地良くて対話を繰り返しているうちに、つい夢中になって時間が経ってしまうんだ。 …でも、そう思っている奴は俺だけじゃない。老若男女垣根無し。わざわざ言葉にしないだけで、その凛とした佇まいの美しさを感じ取り、その姿勢を崩してやろうと刻を伺っている。 今の状態は、均衡を保つギリギリ。 まだ今はこの絶妙なバランスを崩す時ではないと判っているのに、そのしなやかさに甘えてしまう。 これ以上は…ダメだよな…? もう少しだけ、もう少し… 。。。。。。。。。。。。。。。。。。 「…船山、何してんの?」 うわぁぁぁぁぁぁ!!!服部さん!? 「独りでコーヒーゼリーつついて、なんの実験よ」 ミラレテタ/////// 「放っといて下さい。社員食堂の自家製コーヒーゼリーは絶品なんです!!」 「ああ、おばちゃんこだわりの板ゼラチン使ってるから、ぷるんぷるんだろ?」 「…服部さん、何でそんな事知ってるんですか?」 15時43分。優雅なオヒトリサマは呆気なく終了した。 <珈琲ゼリー編おしまい>

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