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第5話 社員旅行 【3-終-】
「いいぞ船山――っ!!」
遠く、後方から、拡声器越しの社長の声が聞こえる。
着地の指示に従い、パラシュートの舵取り穴を左右全開にして高度を下げる。
脚への負担がかかるので、空中を走り続けるイメージで脚を動かして衝撃を分散する。
草地の斜面にふわりと足裏がついた。
背中のパラシュートが絡まないように、破けないように減速する。
「上出来上出来♪ 初日でテイクオフ出来るなんて、なかなかやるなぁ!」
「ありがとうございます!!俺自分でもびっくりしましたよ、このまま飛んで行っちゃうのかと!!!」
「あ…それは無いわ。あれ、初心者用の飛ばないパラだから♪浮いても5m程度w」
え…?20mは飛んだと思ってたのに。ほんの数メートルだったのか…
「じゃ、船山は着替えて皆と合流して。ホテルの送迎車、呼んであるから。
それから、この件は他の奴らには言うな?全員の面倒を見ていたら、自分の飛ぶ時間が無くなるから!」
そう言って社長は自分のパラグライダーを拡げ、颯爽と黒姫高原の山肌を駆け降り、空へと吸い込まれていった。
* * *
夜の宴会でビール瓶片手にお酌に回る。
するとどこから聞きつけたのか
「今年はお前だったんだって?」と小声で囁かれたり、何も言わずにアイコンタクトする人がチラホラ…。
今まで謎のベールで隠されていた、社員旅行中に消えたメンバー。
普通に過ごしていた俺は聞いた事もなかった。
ああ、そうか。
この人たちは、社長のお眼鏡に適う、秘密を守れるメンバーだって事か。
その中に自分も加わったんだ。
そう思って心の中でガッツポーズした。
目元が緩んだのと同時に、離れた席の服部さんと目が合い、咄嗟に顔を背けた。
ここで軽々しく話してはいけない…っ!!
俺は試されている!?
下を向いたままビールを一口。
よし!落ち着いた。
「船山くーん♪」
うわぁッッ!!!何時の間に真横にきたんですか服部さん!!
「心配無用!俺はソッチ側の人間だから」
…やたら小声でそんな事を告げ、席に戻って行く服部さんを見送る。
…あの人も空を飛んだのか??
……人選の基準が分からなくなった。
後ろの席の経理課女子グループのはしゃぐ声が耳に入った。
『社長はオンナノコには興味がない』
『旅行中消えるの、怪しい』
『社内に男性の恋人が居るらしい』
…酔いのせいもあって盛り上がってるなぁ
ん?
噂の中では社長と消えるのは社長の愛人(♂)と??
服部さんのいう「ソッチ側の人間」てのはどういう解釈なんだ!?
問いただす訳にもいかない疑問がグルグル渦巻き、お酌行脚もどうでも良くなって、持っていたビールを瓶のまま煽って飲み干した。
<パラグライダー編おしまい>
食べ物・宴会芸でなくてスイマセン(^_^;) 今回レシピ無しです。
黒姫 斑尾 野尻湖エリアはパラグライダー体験が盛んです♪
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