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第1話
仕立てのよいスーツを身にまとい、気だるげなを雰囲気でバーのカウンターの端のスツールに座る長身でオールバックの男を、高坂は監視するような視線を投げてカクテルをひとくち飲み込む。
年の頃は、40も半ば過ぎたあたりだろうか。
ここは、ゲイバーで有名な場所であり広域暴力団桜星会(おうせいかい)のNo.2である目の前の男がくるような雰囲気の場所ではない。
取引でもしようというのであれば、確かにこのような場所は捜査の対象から外れている。
彼はいつまで経っても化けの皮を剥がさない男と言われている桜星会の幹部、東郷仁志という男である。
落ち着いた仕草や、視線のやり方には隙はないが他の組員のような威嚇的な雰囲気もない。
尻尾なんか出すタイプじゃないな。
カラリと氷の鳴る音に、高坂は視線をあげると件の男がテーブル越し、目の前に立っている。
「席、いいか?」
静かな声は艶やかなバリトンで、この世界にありがちなドスの効いたような響きはない。
「あ、ああ。どうぞ」
「ところで、さっきから視線が痛かったのだけど、俺を監視にきたのかな。……刑事さん」
スツールに腰を降ろすと、唇のみに笑みを刻んで東郷は高坂を見返し、静かにグラスを傾ける。
バレている。
しらを切っても仕方がないというかのように、鋭い瞳が細められる。
「業務命令なんで」
素直に答えると、東郷はグラスに唇をあてて中のグラスを飲み干す。
「見ない顔だから気になってね。ココはノンケが来る場所じゃない。変な奴らに絡まれる前に帰った方が身のためだよ」
諭すかのようにかけられる言葉には、本気で心配して気遣う様子が見えて高坂は首を傾げる。
このヤクザは何を言っているのだろうか。
取引きを見られないための、遠回しの脅迫なのだろうか。
「業務命令なんで」
高坂が再び同じ言葉を繰り返すと、東郷は軽く息をついて危ない子だなと呟いてその腕を引いた。
「じゃあ、俺が店を出ようか。業務命令だし、ついて、くるだろう?」
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