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第11話

「若頭、また例のサツついてきてますけど」 寒河江の耳打ちに東郷はちらと背後を見やり、いつもより近い位置だなと思う。取引先との繋ぎは寒河江にほぼやらせているので、いくら尾行しても無駄だとそろそろ気づくだろう。 散々脅かしたつもりだが、別に堪えたわけでもないのだろう。意地になるような愚鈍な男なわけじゃないとは思うが。 「寒河江、次の取引きはお前に任せる」 そう言いおくと、東郷は視覚でもない位置に立ってこちらを窺っている高坂へと自分から近づいた。 「下手な尾行だな」 「今日は業務命令で尾行しているわけじゃないんで」 眉をあげて視線を少しあげて東郷を見上げる。 「そうか、俺なら問題はないがそのテクニックで他のヤクザ者をつけてたら即殺されるからな。気をつけろよ」 「心配してくれるんですか」 東郷の物言いに可笑しそうに笑いながら、高坂は胸元のポケットに手を入れようとし、東郷は僅かに身を引いて構える。 背後で護衛についている男が銃を構えたのがわかり、とどめようと東郷は片手をあげる。 「新しい名刺、ですよ」 ケースから取り出されたカードを渡されて、東郷は目を見開いた。 カードには、興信所所長と記載した高坂の名前がある。 「警察、辞めたのか」 「桜星会がずっと親父を殺したと憎んできたけど、そうでないなら、俺は、あんたから聞いた親父の死の真相が知りたい。けれど、もうそれは私怨でしかないから」 公共の機関で税金使ってするものじゃないと続けて、高坂は東郷の腕をとる。 親の敵の桜星会がつぶせるなら、敵討ちだといままで職を全うできたが、そうではないと知ったら何も出来ない。 「あんたもこの件を調べてるって言っていただろ。だったら俺と手を組まないか」 静かに視線を絡ませて、目的のためなら手段は選ばないと東郷の手を軽く股間に導くと、ニヤリと笑ってみせる。 「…………カエルの子はカエルだな。有力な情報なら、お前の体と一緒に買ってやろう。金は必要だろ」 静かに言葉を吐き出して、東郷は名刺を胸ポケットにしまいこんで、軽く手をあげる。 「俺もあんたから、情報はほしいですけどね」 この軛にかせられた恩讐に決着つけなければ、前には進めやしないのだ。 東郷の背中を視線で追いつつ、高坂は煙草を1本ひきだすと火をつけて、裏通りの雑居ビルの壁によりかかり深く吸い込んだ。

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