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エピローグ

 宿坊の行灯に照らされた芙蓉はすでに咲き終わり花弁はすでに閉じていた。閉じた芙蓉は薄桃色で、まるで孝彦の睾丸のようだった。美しい皺を刻んでいる。   そろそろ夜が明ける刻のようだ。  僕は孝彦に促され、行水した。  孝彦に用意された服は、僕には少し小さかった。ふんわりと沈香の甘い香りがした。  孝彦も衣類を整えており、僕を見るなり微笑んだ。  「普段着のお姿は年齢よりお若く見えます」  僕は孝彦に微笑みかけられたのが嬉しかった。  「これからもこうして会えるかな?」  孝彦は僕の目をずっと見ていたが、返事は無かった。----------  あの刺激的な宿坊での秘め事が日常に溶け込むことなどあるはずが無く、僕は夢の中から抜け出せない子供のようだった。年甲斐も無く、思いに耽る日々を過ごしていた。  事故後通院のために欠勤することが増え、通院後の僕の足は自然と孝彦の元へと向かいそうになる。その衝動を必死に抑えるのだが、孝彦に会いたい気持ちは日増しに膨らむばかりであった。  僕は決心をし、ある休日に宇賀香木店を訪れた。  そして、孝彦を感じるために香匙を30本購入した。  支払いの際に店主である孝彦の父が、怪訝な顔をしていたのを後ろに感じ、僕は店を出た。僕は購入したばかりの香匙を握り締め、勃起していた。  その夜から、僕は香匙を束ね、激痛に耐えながら自らの肛門を突いた。突きながら陰茎をしごいた。痛みに悶絶しながら、孝彦を想い、必死に肛門で自慰をした。  孝彦を思い出すためだ。  つらい  苦しい  涙が止まらない・・・。  僕は走った。  孝彦の「アトリエ」である宿坊へと走った。  その夜、孝彦は僕を待っていた。僕が香匙を求めたことを知り、孝彦も連夜、香匙を使う僕の姿を想像し、自慰を繰り返していたと話していた。  その話を互いにし、僕たちは止まらぬ涙を拭いながら、互いの肛門を香匙で突き合った。  孝彦でなければだめだ。僕の体は孝彦無しにはもう居られないのだ。  僕は必死に孝彦を求めた。そして、伽羅の香に身を任せた。    今夜も僕たちは香を聞きながら互いの体を使い会話をするだろう。

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