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第1話
日付も変わった繁華街。
眩しいほどに輝く店の明かりに瞬きしていれば、腕に絡み付いた女の子が柔らかな身体をいっそう押し付けてきた。
「ねぇねぇ、坂木さん!今日こそホテル行こうよ。サービスするよ?ね、お願い!」
「んー、行っちゃうか~。」
「ほんと?やったー!坂木さんがお誘いに乗ってくれるなんて、店の子たちに自慢しちゃお!」
頭いたい...煩い...面倒くさい
そんな思いが無いでもないが、若い子に可愛く誘われて満更でもないのも本当だ。
久しぶりの休日、若い頃のように羽目を外すのも悪くはない。
ワインのボトルを空け、ウィスキーも飲んだ。
最後のほうは水なのか酒なのか分からないほどに酔った。
店を出ると後を追いかけてきた女の子が「途中まで送るよ。」と上目使いで言ってくるのを止めなかった。
そうしていつもなら断る誘いを受ける。
たまには良いかと思ってしまうのは、バカほど飲んで正常な判断ができていないから...かも?
それでもぶっちゃけた話、最近ヤってなかったし、後腐れなく関係をもてるのは有り難い。
そんなことを考えながらラブホのある通りへと向かう。
その途中、花壇に座り込みほぼ意識を失っているサラリーマンを見つけた。
隣にはサラリーマンの連れにしては不自然な格好をしたチンピラ風の若い男。
「あのね、お気に入りのホテルがあるの。南国風でね...」
「....へぇ...」
隣でキャッキャッと嬉しそうに語る女の子の声に適当な相槌をうち、何となくその二人組を見つめた。
バカだな、こんな通りで酔いつぶれるとか。
スられたって文句は言えないだろ。
案の定、周りの様子を窺いながら若者の手がサラリーマンのスーツの内ポケットに伸びた。
そうして黒の財布をサッと抜き取るのを見届け、盛大なため息とともに足をそちらに向けた。
「どうしたの?坂木さん」
「君さー、その財布返してくれないかな。僕の連れなんだよね~、このこ~。」
サラリーマンと挟み込むようにして若者の隣に座り込む。酔っ払い特有の語尾が伸びてしまうのは仕方ないだろう。
そうして肩に手をかけ若者が手にした財布を指差しながら「ね?それないと、コイツ困んのよ。」と微笑んで見せた。
「なっ!.....くそっ!」
「きゃっ!」
酒臭いのか眉を寄せ一瞬固まった若者は、その後それを女の子に投げつける。
そうして走り去る後ろ姿に「ありがとなー」と手を振り、女の子に向き直った。
「大丈夫?ゴメンね~。」
「大丈夫。何あいつ、サイテー!」
プリプリと怒る姿に苦笑しつつ、投げつけられた財布を拾う。
さて、どうするか。
隣にはスられていたことにも気づかず潰れたサラリーマン。
ボヤーっとした目でこちらを見ている。
このまま放置しておけばまたターゲットにされるのは間違いないし交番にでも連れていくか...と普段の僕なら考えたハズだ。
が、今はこちらもヘベレケに酔っている。
女の子の手前格好つけて平気な振りを一生懸命してはいるが、正直言って目の前がグルグルと回っている。
................よし。
一回は助けてやったんだ。
放っておこう。
そう決めて「どっこいしょ」と年寄りのように立ち上がりかけると、服の裾をギュッと握られた。
「......セックスしてぇ、、、」
「は?っと、わっ!」
呟かれた言葉に首を捻れば、そのサラリーマンは急に手を伸ばして腰に抱き着いてきた。
「なー、ヤろー...ヤらせれー...今ので勃っら...俺の、ちょーげんきら~...」
「!?」
人の股間に顔を埋め、変態発言をしてくるサラリーマン。
呂律が回っていない舌っ足らずな声でグリグリと顔を押し付けてくる。
「んな、放せ!」
「やーらー!」
「やだじゃねぇぞ!ざけんな放せ!これから女の子とホテル行くんだよ、僕は!」
「んなの、俺といきゃいーじゃんか~!」
「アホか、君は!」
大の男二人、人通りのある場所でギャーギャーと騒ぐ。
注目を集めていることに恥ずかしくなったのか、いつの間にか女の子は姿を消していて。
「な?ヤろ?」
「っ、」
顔を上げ、腰に抱き着いたまま上目使いでこっちを見つめてくるその男の表情に、ウッと言葉が詰まった。
アルコールで染まった頬
潤んだ瞳
どこか熱い吐息
ハッキリ言って、さっき女の子に誘われた時よりもクる...
.....って、
そんなこと決して思ってないからな!!
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