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第2話(※)
「んっ...は...」
スタンドライト一つだけを灯した薄暗い室内で、ピチャ...と濡れた音が響く。
触れるだけの軽いキスなんかじゃない、舌を差し込む深いキス。
絡めていた舌を軽く噛めば「ンク!」と小さく声を詰め、腕に添えられた手に力がこもった。
反応が初々しい...
薄目を開き、至近距離にある男の顔を窺う。
「ん...きもちー...」
「っ、」
キスの合間にボソッとそう呟く。
それが予想外に可愛くて。
「...君が誘ったんだからね。しっかり責任とってもらうから。」
反応を示している自身を相手に擦り付け、その身体をベッドに押し倒した。
『俺とヤろう』
そうさんざん喚き散らかされ、人目を集めたことであの場に居づらくなり逃げるように自宅へと戻った。
このサラリーマンを連れて。
セックスするつもりなんかなかった。
ただ流れ上あの場に置いておくことが出来なかっただけだ。
それを了解と受け取ったのだろう。
部屋に戻るなり盛ってきたこの男に噛みつくようにキスをされた。
押し付けられた唇は案外柔らかく、触れては離れまた押し付けてきた。
その不器用な、それでいて一生懸命なキスに、アルコールでバカになっていた脳が正常な判断を拒み...つい応えてしまった。
舌を差し込めばビクッと身体を震わせ、触れた舌が咄嗟に逃げようとする。
それを逃すまいと腰を引き寄せ舌を絡めれば、濡れた音が互いの唇から漏れていった。
「君...名前は?」
「二ノ宮...」
着ていたスーツを脱がせながら尋ねる。
素直に脱がされていくその様子に、路上で喚いていた時の煩さは感じられない。
「二ノ宮...下は?」
「...雫」
「雫ね...可愛い名前だな。」
晒された首筋に唇を寄せながら囁けば「うるせぇ...女じゃねぇから嬉しくない」と顔を反らされた。
名前を呼ばれるのは嫌なんだな。
その子どものような態度がおかしくて、可愛く思える。
「...あんたは?」
「...名前かい?」
「決まってんだろ、あっ...」
首筋から裸の胸へと唇を移動させ、小さな飾りにもチュッとキスをした。
小さく喘ぎ身を捩るのに気を良くし、何度もそこに唇を寄せる。
「んっ、なんか、へん...そこ嫌だ...」
髪の毛を掴み引っ張りながらそんなことを言われ、クスッと笑いが溢れる。
「譲だよ」
「...え?」
赤らんだ顔を撫で、囁く。
喚いていた時には気づかなかったが、こうしてみると案外整った顔立ちをしている。
「坂木譲、僕の名前。」
「坂木、さん...」
「...『譲』。こういうときは名前で呼ぶものだ。ね?『雫』」
「ゆず、る...さん」
苗字を繰り返す二ノ宮くんに微笑んでみせる。
途端に染まっていた頬をさらに赤くするのが、何ともそそられる。
セックスの時には名前を...なんて、そんなこと別に望んだことなどないが。
彼の反応に、不思議と呼ばれてみたいと思った。
「譲さん...」
もう一度名前を呼びながら、しなやかな腕を首に回してくる。
引き寄せられるままに身体を寄せれば、「身体、あつい...」と囁かれた。
「うん、僕もだ...」
「ンッ!」
チュッと耳にキスを落とす。
擽ったいのか、首を竦めるその様子がなんとも言えない。
「おしゃべりはお仕舞い。集中しようか。」
「ん...」
男とセックスする趣味はないが、これは思ったよりも楽しめそうだ...
年甲斐もなく昂る気持ちと自身に突き動かされるまま、彼の唇に吸い付いたー。
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