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傑作が出来た!

 バレンタインのお返しをすべく、時間をかけて絵を仕上げた今回――  涼一に知られないよう、職場である出版社で休憩時間を使って描いたお陰なのか、思っている以上に、傑作が出来上がってしまった。  完成した絵を前に、笑みが止まらない始末。 「ヤベェ……これ涼一に見せたら、どんなスゲェ反応をしてくれるのかを考えただけで、身震いが止まらないとか」  3月14日の昼休み、会議室にこもって、ひっそりと感想を述べた。 「へぇ、桃瀬にしたらバランスのとれた、いい作品に出来てるじゃないか」  背後から声をかけられ、ビックリしながら振り向くとそこには、三木編集長がいるではないか。 (――音を立てずに近づくとか、幽霊かよ) 「ありがとうございます……頑張ったので、当然の出来かと思うんですが」 「いやいや。お前いつも頑張ってるけど、違うところのベクトルが、えらく突出しちゃって、いつも凄い事になっているじゃないか」  褒められてるのか、けなされているのか分かったもんじゃねぇな、この感想。 「しかし、ホワイトデーの綴り、どうして間を空けたんだ? 何か深いわけでもあるのか?」  グーグルさんで調べたら、こうやって出てきたって言ったら終いだな、マジで。 「べっ、別に綴りが間違ったら困るからって調べたら、こんな風に出てきたので、このまま書いたとかじゃないですよ、ええ」 「まぁいいや。これもらった人が、バカだなコイツって思うだけだから。ご愁傷様」  ポンポン肩を叩いて、去って行く編集長の背中を見てから、改めて絵を見直した。 「絵の出来がいいだけに、このスペルの誤りは、痛いかもしれないな」  直さずに渡してみて、どんな反応を示すのか、それを考えるのも面白い。  大事にそれをカバンにしまって、会議室をあとにした。

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