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ピロトーク:運命の出逢い⑧はじめての共同作業

「お先にお風呂戴いてしまって、どうも……」  カレーをお腹一杯に食べ、お風呂を先に入り、パジャマ姿でリビングに戻った僕。  それまでアレのことを意識しないようにと、必死になって料理を作ることに夢中になったり、口数が無駄に増えてしまっていた。  それなのに郁也さんがどんどん、無口になっていって、難しい顔をするものだから、どうしていいか分からなくなってしまい……  正直、持て余している状態だったりする! 「ビール呑むか?」 「えっ!? あの、えっと、大丈夫です……」  あたふたする僕を見て口元を綻ばせ、柔らかい笑みを浮かべると、「じゃあこれな」と言って、オレンジジュースのペットボトルを、優しく手渡してくれた。 「それ飲んで、待っていてくれ」  頬をそっと撫でるように触れてから、身を翻して浴室に消えていった郁也さん。触れられた頬が、何気に熱い――  ちょっと触れられただけなのに、すっごくドキドキしてしまって、身体全体に熱を持ってしまう。  さっきだって――キッチンでいきなり、キスしてきたとき。  ――今すぐにお前がほしい――  そんな想いがひしひしと感じられる、気持ちのこもったキスだった。  口では、心の整理が出来てるって言っちゃったけど実際、完全に出来てるワケじゃなく。抱かれたい気持ちと、不安に思う気持ちが、いい感じで混在している。  キレイじゃない僕を、どんな風に抱いてくれるのか。いや違う……抱き方なんかじゃなく――  どんなことを考えながら、抱いてくれるんだろ郁也さん。  はあぁと深いため息をついてから、不安を断ち切るように、ペットボトルの蓋を開けて、オレンジジュースを一口飲んだ。オレンジ特有の、甘酸っぱさが身体に沁みる。 「あ~やだやだ。変に気を回しすぎて、グルグルしちゃってるよ。こういうことは、なるようにしかならないのに」  目の前のテーブルにペットボトルを置いて、ぎゅっと膝を抱えた。そして、はしたないけど、そのままソファの上に、ごろんと横になる。  すごく居心地がいい――この家に来てから、妙な安心感があった。きっと家全体から、郁也さんの香りがするからだ。まるで僕の身体ごと、心ごとを包んでくれているみたい。  自分の家にいるよりも、落ち着けることが出来るって、本当にすごいなぁと思う。 「……幸せって案外、身近なトコに転がっているんだな」  お風呂上りのポカポカ感と安心感でつい、うつらうつらしてしまった。 「ゲッ! こんなトコで、しっかり眠ってるし」  遠くで郁也さんの声がした。  そうか。もうお風呂から、上がってきたんだ。 「慣れないことして、疲れちまったんだな。困ったヤツ――」  困ったヤツと文句を言ってるのに、その響きは、とても耳障りのいいもので、思わず口元が緩んでしまった。 「何の夢を見てるのやら。幸せそうな顔して」  覗き込んだのか、頬に郁也さんの前髪がかかって、くすぐったい。  思わず身じろぎした身体を、よいしょと声をかけながら、持ち上げてくれた。そしてスプリングの利いた、ベッドの上に優しく横たえられる。 「ありがとう、郁也さん」  そう声を出したかったのに、重たいまぶた同様に、口を開くのがえらく億劫ながらも、パクパク動かしてみる。だけど全然、声にならない。 「ぷっ、面白い顔。口を動かして、何か食べてるのか?」  僕の寝顔を見て横になったのか、郁也さんの息が肌にかかる。目を開けなきゃ、せっかくふたりきりの夜なのに。 「おやすみ涼一……」  僕の額にそっとキスをしてから、ぎゅっと身体を抱きしめられた。  ……郁也さん、郁也さん、大好き――  郁也さんの温もりを、すぐ傍で感じることが出来て、それだけで幸せで。そのまま眠りの世界に、すっと落ちてしまった僕。普段の寝つきの悪さが、信じられないくらいだった。  そして寝返りが出来なくて、起きてしまった真夜中…… 「んんっ、息苦しい……」  それだけじゃなく暑苦しい。何だろう? 身体が金縛りになってるようだ、ちっとも動かせやしない。  うっすらと目を開けて、状況を把握しようとしたら――頭をぎゅっと押さえつけられ、それすらもままならなかった。  目の前にあるのは、どうやら郁也さんの胸らしい。耳に、規則的な鼓動が聞こえてくる。  すごっ、密着しすぎたよ、この状態!!  急に恥ずかしくなって、両手で胸を押し返した。 「んっ、涼一……」  寝ているというのに、僕の両腕を押さえつけ、いきなり上に乗ってくる郁也さん。身体を体重で押さえつけられ、さっきよりも動かせない。 「ちょっ、郁也さんってば、すごく苦しいよ」  そう耳元で訴えたら―― 「……分った。今すぐ気持ちよくしてやる」  僕の肩口でそう告げて、唐突に耳朶を食みだした。 「なっ、何でっ!? ――っ、ンンっ!」  郁也さん、起きてるんじゃ?  ビクビク感じながら、横目で見てみると、しっかり目をつぶったまま。寝ながら襲うって、この人一体どうなってるの!?  耳朶から首筋に舌を滑らせながら、降りていく頭。 「あぁっ、もう、イヤだよ郁也さんっ!」  何とか片手を、郁也さんの腕からやっと抜き出して、頭に目掛けて振りかぶった。起きるまで何度も、殴ってしまった僕は、正当防衛だと思う。 「あれ、涼一。一体どうした?」 「どど、どうしたじゃないよ。寝ながら僕を襲ったんだよ、郁也さんってば!」 「あ~、思いっきり、ソッチ系の夢を見てたかも。だってお前ソファの上で、しっかり寝てたからな」  殴られた頭を摩りながら、じと目で僕を見る。視線がかなり痛いです―― 「それは、その、ごめんなさい。思っていたよりも、疲れてたみたいで」  モゴモゴと言い訳しか出来ない。 「もう疲れはとれた?」 「えっ!?」  いきなり鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで、顔が近づけられた。 「今から仕切り直し、したいんだけど?」  僕の返事を待たず、噛み付くようにキスをする。すぐさま舌が入り込んできて、求めるように絡められた。 「あぁん、やっ////」 「イヤじゃねぇって。散々待たせやがって、コイツ!」  剥ぎ取られていくように、パジャマが素早く脱がされていく―― 「綺麗だよ、涼一」 「でも僕は――その……」 「優しくするから。身を任せてくれないか?」  そして髪を梳くように、なで続けてくれた。 「郁也さん……」 「怖かったら言えよな、途中でも止めるし」 「……出来れば、止めないで欲しい」  恐々と告げた僕の言葉に、首を傾げる。 「僕を、郁也さんのものにして欲しいから。お願いだから、抱いてください」  暗闇の中、ふっと笑った感じが伝わってきた。 「そんな風に求められたら、止められないな。でも辛かったら言えよ、止めないけど、優しくするからさ」  僕の額に、まぶたに頬に、優しくキスを落としてから唇目掛けて、郁也さんの柔らかい唇が、ゆっくりと重ねられる。  さっきのような貪る感じのキスじゃなく、僕自身を味わうような、しっとりとした優しいキス――角度を変えて責められるだけで、どうにかなりそうだ。  身体中に浴びせられる、キスの嵐と郁也さんの言葉が、じわりと胸に染み渡り、生まれて初めて抱かれる喜びを、感じることが出来た。 「涼一、も、少し……力抜いて」 「はっ、ああぁ…っ、はぁはぁ……んっ…」 「大丈夫か? 辛くない?」 「だっ大丈夫、っん……辛く、な、いよ…っ」    胸を上下させる僕の身体を、いたわる様に抱きしめる。郁也さんの身体の熱が直に伝わって、更に体温を上昇させた。  その後――  腰を打ち付けると上にズレてしまう、僕の肩を掴んで押さえつけ、ゆっくり動き出した郁也さん。  今、ひとつになってるんだ―― 「ずっと繋がっていたい、涼一……」 「はぁ……僕も、そう、思っていた、よ」 「涼一っ、りょう――」  激しくなっていく律動が、どんどん頭の中に侵食してきて、ワケが分らなくなってきた。 「いっ郁也さっ、もっと…あぁあぁっ、求め、てほしぃっ…んんっ!」  郁也さんの身体に、両腕を絡ませる。僕の声に応えるように、激しいキスをしてくれた。そして、より一層腰の動きが激しくなる。  貫かれる喜びとか、気持ちよさとかいろいろ相まって、声にならない声でイくと、郁也さんも僕の中で果てたのだった。

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