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ピロトーク:それぞれの想い③
あの赤面がなくて鼻の下がびろーんと伸びていなきゃ、もっといい写真が撮れそうなのに。
なぁんて考えつつ、しっかり郁也さんに対しての文句を内心で呟く。困った顔してるけど、きっと喜んでいるに違いない! しかも意外とお似合いなんだよなぁ。悔しいんだけど――
チラリと隣にいる克巳さんを見ると、僕とは違い何だか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「あの、少しだけ聞いていいですか?」
「少しだけじゃなく、たくさん聞いていいよ。何?」
切れ長の一重まぶたをすっと細めながら、ふわりと柔らかく微笑む。
――人当たりのいい人で、本当に助かるなぁ。
「すごく失礼なこと聞いちゃうんですが、克巳さんはどうしていつもそんな風に、落ち着いていられるのかなって。稜さんは誰に対してもフレンドリーな接し方をしていて、恋人としてそこのところが不安になったりしませんか?」
僕の質問に、一瞬だけピクリと頬を動かして反応した。
「確かに……あまり面白くはないけどね。それよりも、落ち込んでいる姿よりはマシだと思っているから」
「……何か、稜さんが落ち込んでるところが想像つかないです」
テレビでしか彼を見ることができないので、しょうがないと思うのだけれどテレビの中の彼はいつも笑顔に溢れていて、元気ハツラツだったから――
「好きだった幼馴染のコに振られた上に殺されかけたりと、いっぺんに不幸に襲われてしまったからね。しかもゲイであることを世間に公表され、面白可笑しく報道されてキズは更に深くなっていったと思う。だから入院中は、酷く落ち込んでしまってとても見てはいられなかった」
テレビで放映されたとき、可哀想だという感情よりも物珍しさで稜さんを見ていたのを思い出した。
というか、今の自分の境遇に重ねて見てしまった。こういう好奇の目に晒されるんだって――
「稜はね、華のようなコなんだ。愛情という名の水をきちんとあげれば、艶やかでキレイな華をずっと咲かせることができるんだよ。ああやって、笑いかけてくれる」
稜さんは、身体からはじまった関係だと寂しそうに言っていたけど、事件のお陰でふたりの関係がより一層深まったのが、克巳さんの言葉で何となく伝わった。
きっとお互い信じ合っているから、嫉妬する必要がないんだろうな。
克巳さんにとって、稜さんは華のような存在。なら僕は郁也さんにとって、どんな存在になるのかな?
家の中に引き篭もりになる自分、外に出て行く郁也さん。
『……浮気、してない?』
なぁんて言ったりして……どこか信用してないところがあるから、こんなセリフがぽろりと出ちゃうのかも。
何か今回の対談、いろいろ考えさせられるものがたくさんありすぎて、どこから手をつけていいか分からなくなっちゃう。
「小田桐先生っ!」
ぐるぐる考えすぎてこっそり落ち込んでいる僕に、元気よく声をかけてくれた三木編集長さん。
「桃瀬にとって小田桐先生も同じく、花のような存在だと思いますよ」
「えっ!?」
「一輪挿しにさして、特別に自分だけが愛でることのできる花といったところです。誰の目にも触れさせたくないほど、キレイってことで」
「確かに……。それは一理ありますね」
ふたりして含み笑いをしながら、じっと僕を見る。
「俺としても稜を花瓶に生けておきたいんですけど、エンターテイナーなのでそれができなくて残念なんですよ」
残念というセリフとは裏腹な、どこか嬉しそうな表情で喋る克巳さんをそっと見上げたとき――
「涼一っ!」
不機嫌を示すべく靴音を鳴らして歩いて来て、僕の左腕をがしっと掴み、隣にいる克巳さんから強引に引き離した。
「今、仕事中だよ桃瀬さん」
今更だとは思うけど、みんなの前ではちゃんとしなきゃいけないと考えたので、眉根を寄せながら注意をしたら、面白くなさそうな顔をして、掴んでいた腕をぽいっと放したのに、コッソリ指を絡ませて後ろ手に隠す。
「桃ちゃん、器、小さっ!」
そんな僕らを指差して、クスクス笑う稜さん。対談して打ち解けたお陰で、最初の頃よりも緊張感がなくなっていた。
不思議だな――あんなに捕って食われると思ってビクビクしまくっていたのに、本のことを褒められて郁也さんとのことを応援するって言われたせいか、昔からの友達のように接することができる気がした。
……って、僕が単純なだけかも。
「稜、そんなことを言ったりしたらダメじゃないか。妬んでいるのは、バレバレだよ」
「なっ、何だよ!?」
慌てふためく稜さんに意味深な流し目をしてから、右手をぎゅっと恋人繋ぎした克巳さん。その動きがとてもスムーズで、自然に見えた。
「ちょっ、何でいきなり、手を繋ぐかな!?」
いつも周りを翻弄する稜さんがあからさまに真っ赤になって、抗議をする姿はすっごく貴重かも。
「ヤることヤってるのに、これくらいのことで赤くなるなんて本当に可愛いね」
「もぅ質問、無視すんなよ」
「はいはい。俺が手を繋ぎたかったから……。ということにしておいていいよ」
羨ましい――このふたりの関係は、大っぴらにしてても認められていて。僕らは繋いでる手のごとく、隠さなければならない関係なんだな。
その違いに見ていられなくなって俯いたとき、絡められてる指にきゅっと力が込められた。
ゆっくり隣を仰ぎ見ると郁也さんがこっちを見て、柔らかく微笑んでくれる。それがまるで僕たちは僕たちだって言ってるように感じられて、胸がじーんとした。
それが堪らなく嬉しくて、微笑み返す。
隣に郁也さんがいる――。これだけでも充分に幸せなのにね。
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