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ピロトーク:after Jealousy②

*** 「対談が無事に終わって良かったねー! かんぱーい!!」  ビールの500mlをふたりで半分こしてグラスに注ぎ、カチンと合わせて乾杯をした。お酒に強くない、僕たちの乾杯の仕方なんだ。  お互いに視線を絡ませてからゴクゴクと半分呑み干し、ぷはーっと息を吐く。  ――幸せのひととき――  郁也さんも帰ってきたときよりは、表情がどこか穏やかになっていた。 「ねぇ、郁也さんも僕に言って欲しいセリフは、何かないかな?」  うきうきしながらネタ帳を手渡したら中身を見た途端、むーっと顔を曇らせる。 「お前――コレを俺に言えと?」 「うん!」 「こんなの、いつ言うんだ?」 「今、言ってほしい!」  持ってるグラスを意味なく手の中でぐるぐる回し、上目遣いしながら言うと、見る見るうちにぽっと顔を赤らめる郁也さん。手に持ってるネタ帳が、わずかに震えているよ。 「――ったく、しょうがねぇな」  言うなりグラスのビールを一気呑みして、はーっと深いため息をひとつ吐く。  そして向かい側にいる僕をじっと見つめたと思ったら、すぐに目を閉じちゃった。 「あ、愛してる……。俺の腕の中に閉じ込めておきたい」  そこはあえてこっちをじっと見て郁也さんに言って欲しいと、ワガママは言えないか。耳まで赤くして、何とか頑張って言ってくれたしね。 「僕も郁也さんに閉じ込められたい」 「これって、ベッドの中で言った方が――」 「はいはい、次があるでしょ! 言ってみよう!」  たった一言で終わらせるもんか。自分の気持ちをきちんと告げることに、少しでも慣れてもらわなきゃ。 「何の羞恥プレィだよ、まったく。えっと……お前の全部が好きなんだ――」 「うん……」 「俺だけを想っていてくれっ」 「うんうん!」  ああ、嬉しいな。郁也さんがどんどん甘い言葉を吐いている! 言い方が、ちょっとだけ投げやりなのが難だけど……。 「……なぁ、ひとつだけ変なのがあるんだけど。マッサージして差し上げましょうか、お疲れでしょう? ってコレ何だ?」  あ、それね――マッサージといえばアレだろうよ、アレしかないだろうに。編集者としてソレに結び付けられないって、ちょっと問題あるんじゃないのか?  呆れ果ててグラスに入ったビールをグビグビと呑み干し、不思議顔する郁也さんを白い目で見やる。 「僕だって執筆で、すっごく疲れるときがあるんだ。マッサージのひとつくらい、してくれてもいいだろ」 「ああ、確かに――」  だーっ! どうしてそう真面目に受け取っちゃうかな。――そういう素直なトコ、すっごく好きなんだけど。 「郁也さんは、僕に何か言って欲しい言葉はないの?」  せっかくの甘い空気に酔いしれたかったのに、これじゃあいけないと判断。話題を変えるべく質問してみた。 「ちょっと待っててくれ。うーん……」  顎に手を当てて真剣に考えてる姿に、つい見惚れてしまう。見ているだけで、何だか癒されちゃうなぁ。 「ほら、これ……」  えらく難しい顔してサラサラと書き込んだネタ帳を、押し付けられるように手渡される。どれどれ――む、たった一文。   「……これだけなの?」 「俺としては、それがグッとくる感じなんだが」  ちょっとテレながらこっちを見る視線に応えなければと、顔の筋肉をきゅっと引き締めた。 (何だか俳優になった気分)  ネタ帳を手元に置き、郁也さんに視線を投げかけながら言い放ってやる。勿論、心を込めて―― 「僕には――僕には郁也さんしかいないんだっ」 「…………」 「グッときた?」  一応だけど、心を込めて言ったんだぞ。感想くらい照れずに、すぐに言えってんだ! 「涼一……」  するとおもむろに立ち上がり僕の目の前に立つと、頬に手を添えてキスをしようとしてくる。そんな郁也さんの頭を、手元に置いてあったネタ帳で思いっきり振りかぶってやった。  バシンッ!! 「いてっ!? どうして――?」 「どうしてはこっちだよ、もう! なんで何も言ってくれないのさ? 僕はきちんと、郁也さんが言って欲しい言葉を心を込めて言ったんだ。それに対して、言葉で返さないとダメなんだってば」 「……その、何だ、上手く言葉にならなくって」  照れながら頭をぽりぽりと掻く。それが分かっているからこその訓練なんだよ! 「だったら、それを伝えればいいでしょ。キスして誤魔化そうとするのが、すっごくムカつく」 「でもそれじゃあお前が、納得しないんじゃないかと思って」 「なら、納得するまで話し合おうよ。僕はね、郁也さんの考えてることがもっと知りたい」  郁也さんの首にそっと腕を伸ばし、ちゅっと触れるだけのキスをした。 「郁也さんの全部が知りたい……。そして心ごと身体ごと、分かち合えたらなって思ってるんだ」 「涼一……」 「だから、今夜は――」  首に回していた手を腕にぎゅっと絡ませて、無理矢理に寝室へ連れて行き、手荒にベッドに向かって郁也さんを派手に突き飛ばしてやる。 「うわっ!」  その身体にすかさず跨って、ベッドに磔にしてあげた。僕がイライラしていた理由は、これだけじゃない。稜さんに振り回されていちいち赤面していた郁也さんを、何も感じずにいなかったと思ってるんだろうか?  キスだけじゃ全然足りない――分かっているのに、郁也さんを求めずにはいられないんだ。 「んっ……」  重なる唇から甘い吐息が漏れた。その呼吸も奪ってやろうと、更に深く唇を押し付けて、ぬるりと舌を絡めてみる。  ――もっと僕だけを、見ていて欲しい…… 「僕の書いたセリフ、ちゃんと目を見て言わなきゃ、このまま郁也さんを、ヤっちゃうから」 「ええっ!?」  リビングの電気がそのままなので、そこから漏れた明かりが郁也さんの慌てまくった顔を、ほんのり照らしていた。  僕だけに愛の言葉を囁いてほしい――こんな卑怯な手を使ってでも郁也さんの口から、あのセリフが聴きたかったんだ。  やがて観念した顔をして僕を見上げる。今度はちゃんと目を見てくれた。 「俺だけを想っていてくれ。愛してるんだ涼一――」  次の瞬間、身体に回された腕で、いとも簡単に上下が逆転させられる。驚きながら目の前を仰ぎ見ると、天井と一緒に頬を赤く染めた郁也さんが僕を見下ろしていて。  そしてぎゅっと、力強く抱きしめてきた。 「涼一をこのまま腕の中に閉じ込めておきたい。誰にも触れられないように」 「郁也さん……」 「これでも結構、ヤキモキしたんだぞ。葩御稜に手の甲にキスされたり能天気に笑いかけて、ニコニコ談笑しやがって。それ見て、イライラしていたんだからな」 「それは僕だって同じだよ。嬉しそうな顔して、稜さんの身体に腕を回して抱きしめちゃってさ」  珍しく声を低くして告げると、バツの悪そうな表情を浮かべた。 「あれは仕方ないだろ。仕事みたいな感じだし」 「分かってる。だけどそれでもイヤなものはイヤなんだ。僕は克巳さんみたいに、涼しい顔なんてしていられないんだよ」  郁也さんの整った顔を見つめて、両手で頬をそっと包んだ。てのひらに、じわりと伝わってくる頬の熱が僕への想いの証――  それを愛しく思いながら、きゅっと噛みしめた。 「大好きな郁也さんが他の人を見て、赤面するのが許せない。照れ屋だってこと分かってるけど、それすら許せないくらい僕は許容が狭いんだ」 「それは俺だって――」 「同じだって、郁也さんは言いたいんだろ? だけどね、それが伝わってこないんだよ。いきなり身体を求められてもホントのトコ、迷惑なだけなんだからな」  包んでいる手に力を込めて、郁也さんの顔を引き寄せる。 「もっと言葉で伝えてよ。郁也さんの口から、直接気持ちを聴きたいんだよ。僕のことをどう想っているのか……」  ――知りたいんだ。  その言葉が郁也さんのキスで、見事塞がれてしまった。言ってる傍から、どうして!?  ムッとなりかけたとき―― 「いろいろ不安にさせて済まなかった。赤面は条件反射みたいなものだ、何とか受け流してくれ」  唇と唇が触れそうな距離で、無理難題を言ってくる。 「そんなの受け流せてたら、最初からしてるって」 「赤面はするが、アレが勃つのはお前だけだから」 「ホントかな……」  プイッとそっぽを向くと、耳元に顔を寄せてきた。吐息がくすぐったく感じる。 「涼一にしか欲情しない。お前の全部が好きなんだ」 「くっ――」  普段言われない言葉だからこそ、ビシビシッと心に響いちゃった。艶のある低音の郁也さんの声が、しっかりと耳に残ってるよ。 「なぁひとつ、お前に言ってほしいこと、今更だけど思いついた」  笑いながら声を潜ませて、それを嬉しそうに僕の耳元でこそこそ告げてくれたのだが。 「――今それを、僕に言ってほしいと?」 「当たり前だ。今だから、だろ」  僕が心底困った顔をしたら、くっくっくっと声をたてて笑い出した。 「なぁ? 普段言わないことを言うのは、すっげぇ恥ずかしいものだろ」 「はっ、恥ずかしくなんかないんだからな! ふざけるな。 郁也さんと違って、こんなことくらい簡単に言えるってば!!」 「ほほぅ……。それじゃあ早速言ってくれ」  目を細めて僕を見つめる、その顔の憎たらしいこと! 「……うっ、郁也さんの好きにしていいよっ!」 「ああ」 「僕を感じさせて……よ……」 「たくさん感じさせてやる、イかせてやるから涼一――」  こめかみにぶちゅっと派手なキスをして、僕の服をいそいそと脱がしにかかる。 「郁也さ……」  シャツのボタンを外す手が、何だかもどかしく感じちゃう。 「なに? 自分でほぐすって?」 「なっ」  エロいことを平気な顔して言えるクセに、肝心の自分の気持ちが上手く言えないって、この人はどうなっているのだろう。 「恥ずかしがるな。そんなことを忘れるくらい、感じさせてやる」  結局、僕の文句も何もかも郁也さんによって封印されたのは、いうまでもない――

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