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ピロトーク:郁也さんと周防さん
※【小児科医 周防武の最後の恋】Love too late(第二章):おとしものとリンクしております。2サイドでお楽しみ戴けたら幸いです。
10月の時期は、何かと出版社は忙しいらしく、郁也さんが家に帰ってこない日が、何日か続いた。帰ってたと思ったら、着替えを取りに来て、ついでに仮眠を2・3時間だけするという、ハチャメチャぶりの生活――
心配になって声をかけるんだけど、副編集長の座がかかってるとか、とにかく郁也さんが、職場で頑張らなきゃならないとのことだった。
そんな郁也さんを、見守ることしか出来ない僕だったけど、その頑張りを見て締め切りを、きちんと守っていた。
迷惑をかけなければ、これで郁也さんの仕事が、少しでも捗るからね。
だけど正直、肩書きなんかよりも自分の身体を、大事にしてほしい――
そう思っていたある日、出版社から朝帰りした郁也さんが、フラフラになって、玄関に倒れこんでしまった。
「ちょっ、どうしたんだよ!?」
「あー……ゲホゲホッ、ずっと咳が止まらなくて。ゲホゲホ! 風邪引いたみたいだ」
「熱は? これから病院行く?」
慌てて駆け寄り、上半身を起こしてやる。抱きしめたところが、いつもよりほんのり熱い。
「いや……ここに周防呼ぶ」
言うなり、ポケットから携帯を取り出して、すぐさまコールした。
「……忙しいトコわるぃ、周防。暇なときでいいから往診、来てくれないか?」
電話の向こう側の周防さん、朝のこの時間は病院開ける前で、忙しいんじゃないのかな?
「ゲホッ! 病院に顔を出す暇も忙しすぎて、結局作れなくってさ。気がついたら、ゲホゲホ……っ、くっ、風邪引いちまった」
苦しそうに咳き込む、郁也さんの丸くなった背中を、優しく撫でてあげる。
こんなことで、咳がなくなるワケじゃないけど、黙ってみていられないよ。
「熱はそれほど、高くないんだけど。ゲホゲホッ! 咳が辛くて、寝ていられない」
咳をしながら、辛さを訴える言葉に周防さんは何かを言って、すぐさま電話が切られたようだ。
力が抜けたのか、ぽいっと携帯を放り出し、僕の身体に圧し掛かる。
潤んだ瞳で僕を見て、ちょっとだけ笑った郁也さん。その目が心配するなと、言ってるみたい。
「周防さん、何か言ってた?」
「んと、ゲホゲホッ……胸から上を高くして、横になってれって。出来れば加湿もしろとさ」
「分かった。僕の枕を布団の下に入れて、頭を高くしよう。加湿については洗濯物を干せば、大丈夫かな」
よいしょっと、郁也さんに肩を貸して、ゆっくりと寝室に連れて行った。
「周防のヤツ、昼から来るって。ゴホゴホっ!」
一旦ベッドに座らせて上着を脱がせて、ネクタイを素早く外してあげる。
「ゴホゴホ……悪いな、世話かけて」
「喋らなくていいよ、咳が辛いでしょう? お水飲む?」
僕にしたら、いつもよりも素早く行動できたと思う。郁也さんを、てきぱきと着替えさせることに成功。自分の部屋から枕を持ってきて、ベッドの下に敷いてやり、その上にそっと寝かせてあげた。
「あー……職場で寝てるときと、やっぱ違うわ。咳が出にくくなるんだな。すっげぇ楽っ、ゲホッ!」
「今、お水持ってくるから、ちょっと待っててね」
すっげぇ楽とは言ってるけど、辛そうな顔は相変わらず。
――早くお昼にならないかな。
郁也さんを周防さんに、早く診てもらいたい。故に待ちきれなくて、何度も時計と睨めっこしてしまう、僕であった。
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