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ピロトーク:揺れる想い②

 お互い何を喋ったらいいのか分らず、沈黙がしばらく続いた。  周防さんの気持ちを、郁也さんに伝えたものの、それを今すぐ受け止めて認めるっていうのは、正直酷な話だと思う。  だって、ずっと親友だと思って接してきた人が実は、自分を好きだったという衝撃的な事実。   「郁也さん……」  俯いてた顔を上げ、そっと名前を呼びかけてみると、柔らかく微笑んだ。 「涼一の言うとおり、やっぱ俺ってダメだな。自分の気持ちにゆとりがない分、相手のことを見れていない。だから周防が俺のことを、そんな風に想っていたなんて、全然気がつかなかった」  持っていたコップを静かにテーブルに置き、深くため息をついた。 「いつから、周防に好かれたんだろうな。思い返してみても、さっぱり分らなくてさ。俺は今も昔もずっと、親友として接していたから」 「うん……」 「そういう態度ってさ、ある意味惨いことだよな。無意識に傷つけるのって、最低だって思――っ」  郁也さんの言葉を遮るように、その身体をぎゅっと抱きしめる。言いながら考えながら、これでもかと傷ついてる姿を、これ以上見たくはないよ。 「周防さんが郁也さんに、気持ちを告げなかった理由は、そんな顔をさせたくなかったからだね。きっと……」 「自分の無神経さを、今更だけど激しく呪ってる。反省しても、しきれないレベルだな」    腕の中にいる郁也さんが、少しだけ笑った気がした。 「そんな郁也さんが、僕は好きだよ」 「物好きなヤツ。呆れ果てて、嫌いになったりしないのか?」  僕が落ち込んだとき、郁也さんがいつもしてくれたように、ゆっくりと頭を撫でてあげる。お風呂上りだから、まだしっとりと髪が濡れていた。 「さすがに今回のことは、周防さんのことを思うと、居たたまれなくなっちゃったけど」 「けど?」 「郁也さんを嫌いになる、理由にはならないよ」 「涼一……」 「郁也さんが感じなければ、僕が代わりに感じて、それを伝えればいいだけのことだと思うんだ」  髪を梳きながら、ゆっくりと頭を撫で続ける。  こんなことくらいで、不安な気持ちは、どうにもならないかもしれない。だけど、何かせずにはいられないんだ。 「僕はたくさん郁也さんから愛情、貰ってるから。お返しには、ならないだろうけどね」  そう言うとちょっとだけ笑いながら、撫でている手をぎゅっと握りしめて、甲にキスを落とした。柔らかい唇が肌に触れた瞬間、心臓が一気に跳ねる。  郁也さんが心を込めてしてくれたキスだから、尚更―― 「周防の気持ち、教えてくれてサンキューな。知らずにいたら、もっと傷つけることになっていたかもしれん」  その言葉に首を、ふるふると横に振った。 「今回は太郎くんもいるワケだし、これ以上厄介なことになったら、みんなが不幸になっちゃうから」  窺うように、郁也さんを見つめてみた。 「俺は、手出し無用ってことだろ。涼一の顔にそう書いてある」  僕の気持ちが上手く伝わったことがすごく嬉しくて、思わず微笑んでしまった。僕の笑みにつられる様に、郁也さんがふわりと笑う。  その柔らかい笑みに引き寄せられて、郁也さんの唇に、そっと唇を重ねた―― 「あのさ……」  唇を離した途端、今度は郁也さんが僕を窺うように見る。 「周防からSOSが出たら、助けてもいいだろ? 親友として」 「それは勿論、助けてあげなきゃ」 「その時は涼一のアシスト、頼むかもしれない。助けてくれよな」 「そんなこと言われなくても、勝手に首を突っ込もうとしていたよ。郁也さんひとりじゃ、やっぱり心配だからね」  心配だけじゃなく、愛しいから。片時も目を離したくはないんだ。  いつも何を考えて、何を思っているのか。郁也さんのことなら、どんなことでも知っておきたい。 「それとさ、今晩お前のベッドで寝ていい?」 「いいけど狭いよ。今日の疲れが、取れないんじゃないの?」 「そうなんだけどさ……」  艶っぽく笑いながら、いきなり僕を横抱きにした。 「わわっ!?」 「今すごーく気持ちが不安定で、何かに包まれていたい気分でさ」  上手いこと肘を使ってリビングの電気を消し、颯爽と僕の部屋に向かう。 「涼一の布団に包まれて、涼一のニオイを嗅いで、涼一を抱きしめて寝たいんだ」 「何それ? 意味、分かんない(´・д・`)ゞ」  僕のニオイが、精神安定剤みたいな感じなのか!? 「ん~。涼一の存在全部を、貪りたいって感じかも」  貪りたいと言いつつ――やっぱり気持ち的には、ショックだったんだろう。  この日は僕に手を出さず、ぎゅっと抱きしめて、眠りについた郁也さん。  ――僕の存在で癒されるなら。  その身体に腕を回して、しばらく頭を撫でてから寝たのだった。

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