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ピロトーク:ピロトークを聴きながら③

***  点滴の管の中の滴る液体を見ている内に、眠ってしまったみたいだ。  ゆっくりと目を開け、周りを見渡してみたけど誰もいなくて、少し寂しかった。 「……郁也さん、どこに行っちゃったんだろ。周防さんと喋ってるのかな」  僕が飲んでしまった薬について、詳しく説明を受けている最中なのかもしれない。薬のせいとはいえ―― 「あんなに乱れた僕を、イヤな顔ひとつせずに、最後まで付き合わせてしまって、悪かったな……」  あんなこと心配しながら、辛そうな顔してすることじゃないのに。 「目が覚めていたんだ、気分はどうだい?」 「周防さん……はい、お陰さまで随分と楽になりました」  もう少しで無くなりそうだった、点滴を見に来たのかタイミングよく、顔を出してくれた。 「ここに来たときよりも、顔色が良くなってるね。他には、辛いところないかな?」  てきぱきと点滴の後始末をしながら、優しく訊ねてくる。 「胸のドキドキも治ってますし、呼吸も普通にしていられるので大丈夫です。有り難うございました」  腕から点滴の針を抜かれ、自由になったので起き上がり、しっかりと頭を下げた。 「俺が出来る治療は、ここまでだからね。精神的なショックが大きいと思うから、焦らないでゆっくり生活しなきゃダメだよ」  精神的なショック―― 「ももちん、職場に休みを取ったみたいだから、これを機会に、いっぱい甘えちゃいな」 「え――? わざわざ、休みを取ったんですか?」 「そりゃ、そうでしょうよ。大事な恋人が、寝込んでいるんだから。だけど休みの申請する前に編集長が休めって、粋な計らいをしてくれたみたい。恵まれた職場だよね」 「みんなに迷惑を、かけてしまって――」  郁也さんだけじゃなく、三木編集長さんにも迷惑がかかってしまった。 「何、言ってんの! 涼一くんは被害者なんだよ。申し訳ないって思うの、おかしいよ」 「でも……」 「今まで忙しく過ごしてた、ももちんと涼一くんに束の間の休息時間という、ご褒美が出来たって考えたらどうかな? 医者の俺からみたら、ふたり揃ってオーバーワーク気味だったからさ」  端正な顔を、にゅっと寄せてきたので、どぎまぎしてしまう。迫力のある、キレイな周防さんに見つめられ、NOと言える人がいるなら見てみたい。  太郎くんなら間違いなく、喜んで飛びついているだろうな。 「分かりました。ふたりでゆっくり、過ごすことにします」 「よしよし! それじゃあ、ももちん呼んでくるね。今、太郎の勉強を見てもらってるの」  嬉しそうな顔して、呼びに行った周防さんだったけど、戻ってきたときは、顔を引きつらせていた。  だって―― 「また分かんねぇトコあったら、遠慮しないで聞きにこいよ。ウチに遊びに来てもいいしな」  自分よりも背の高い太郎くんの頭を、思い切りぐちゃぐちゃと撫でている郁也さん。 「ホントっすか!? 遠慮せずに、遊びに行っちゃいますよ」  嬉しそうにして頭を撫でられ、しっかり懐いている太郎くん。確かふたりの間には、微妙な空気が流れていたハズなのに。  僕が首を傾げると、不機嫌な顔した周防さんが太郎くんに訊ねる。 「ちょっと勉強を見てもらって、お互いに打ち解けたりしたの?」 「いやいやぁ、何ていうか、男同士の友情みたいな?」 「そうそう! 俺が太郎の勉強を見る。そうすれば、周防が幸せになるんだからな」  その言葉に僕と周防さんが眉根を寄せると、郁也さんと太郎くんが、仲よさそうに肩を組んだ。 「俺、勉強頑張ります! タケシ先生を幸せにします!」 「おーっ! 応援するぞ、頑張れ!」  恐る恐る周防さんの顔を窺うと、額に青筋が立ってるように見えたのは、気のせいと言いたい。  太郎くん、どうなっても知らないよ――

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