51 / 87

ピロトーク:ピロトークを聴きながら②

「なぁ、聞いていい?」 「早速分からないトコが、出てきたのか?」  向かい合わせで座ったダイニングテーブル。神妙な顔をした太郎が、いきなり訊ねてきたので、ちょっとだけ身構える。 「タケシ先生よりも頭が良かったのに、どうしてもっと、儲かりそうな職に就かなかったんだろうって」 「儲かりそうな職?」 「えっと銀行員とか官僚とか、頭が良ければ、選り取り見取りだろ?」 「確かに――そういう選択肢もあったけど、俺は編集者になりたかったしな。大好きな本に携わりたかったから、この道に進んだんだ」  テーブルに頬杖をついて微笑んでやると、そっか。と一言呟いて、俯いてしまった。 「どうした太郎、何か不安でもあるのか?」  いきなり仕事のことを訊ねてきたあたり、関係あるのかもな。 「――素直に、羨ましいって思った。頭いいだけで選択肢が、無限に広がるもんな。どう転んだって今の俺じゃ、無理な話なんだ」 「無理だと思うから、無理になるんじゃないのか?」 「ああ、もう! ホント俺って、あったま悪いんだ。引っくり返ったって、医者にはなれねぇんだよ!」  言いながらテーブルをバンバン叩く。 「医者、か。当然、周防繋がりだろ」  ニヤニヤしながら指摘してやると、唇を尖らせた。 「だってこれが一番、傍にいられる位置だろうが」 「そうだな、頑張らないのか?」 「ぜってー無理。小学校からやり直すレベルだからさ。でさ、いろいろ考えたんだ、俺がなれそうなモノ」  見た目チャラいのに、しっかりしたヤツなんだな。コイツなら周防を、安心して任せられる―― 「何かなれそうな職、あったのか?」 「手っ取り早く看護師がなれる確率、あるかなぁって」 「確率の問題じゃない、なりたいならなってみせろよ。周防の傍にいたいんだろ?」 「そりゃ、まぁ……」  眉間にシワを寄せて、難しそうな表情を浮かべた太郎。人生の先輩として、いいトコみせてやろうか。 「信念のあるヤツって、全然迷いがないから、それに向かって真っ直ぐに突き進む。だから叶うんだ。周防と付き合っていこうと考えたから、看護師になりたいって思ったんだろ?」 「――うん。一緒にこの病院を、切り盛りしたいって想像した」  照れながら告げられた言葉に、思わず微笑んでしまう。 「それなら勉強、頑張らないとな。分からないところを教えてくれ」  太郎の初々しい発言が沈んでいた心を、少しだけ浮上させた。このあと俺は涼一に対して、何が出来るだろうか――  勉強を教えながら、脳裏でそのことばかり考えてしまい、結局答えが出なかった。

ともだちにシェアしよう!