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ピロトーク:ピロトークを聴きながら②
「なぁ、聞いていい?」
「早速分からないトコが、出てきたのか?」
向かい合わせで座ったダイニングテーブル。神妙な顔をした太郎が、いきなり訊ねてきたので、ちょっとだけ身構える。
「タケシ先生よりも頭が良かったのに、どうしてもっと、儲かりそうな職に就かなかったんだろうって」
「儲かりそうな職?」
「えっと銀行員とか官僚とか、頭が良ければ、選り取り見取りだろ?」
「確かに――そういう選択肢もあったけど、俺は編集者になりたかったしな。大好きな本に携わりたかったから、この道に進んだんだ」
テーブルに頬杖をついて微笑んでやると、そっか。と一言呟いて、俯いてしまった。
「どうした太郎、何か不安でもあるのか?」
いきなり仕事のことを訊ねてきたあたり、関係あるのかもな。
「――素直に、羨ましいって思った。頭いいだけで選択肢が、無限に広がるもんな。どう転んだって今の俺じゃ、無理な話なんだ」
「無理だと思うから、無理になるんじゃないのか?」
「ああ、もう! ホント俺って、あったま悪いんだ。引っくり返ったって、医者にはなれねぇんだよ!」
言いながらテーブルをバンバン叩く。
「医者、か。当然、周防繋がりだろ」
ニヤニヤしながら指摘してやると、唇を尖らせた。
「だってこれが一番、傍にいられる位置だろうが」
「そうだな、頑張らないのか?」
「ぜってー無理。小学校からやり直すレベルだからさ。でさ、いろいろ考えたんだ、俺がなれそうなモノ」
見た目チャラいのに、しっかりしたヤツなんだな。コイツなら周防を、安心して任せられる――
「何かなれそうな職、あったのか?」
「手っ取り早く看護師がなれる確率、あるかなぁって」
「確率の問題じゃない、なりたいならなってみせろよ。周防の傍にいたいんだろ?」
「そりゃ、まぁ……」
眉間にシワを寄せて、難しそうな表情を浮かべた太郎。人生の先輩として、いいトコみせてやろうか。
「信念のあるヤツって、全然迷いがないから、それに向かって真っ直ぐに突き進む。だから叶うんだ。周防と付き合っていこうと考えたから、看護師になりたいって思ったんだろ?」
「――うん。一緒にこの病院を、切り盛りしたいって想像した」
照れながら告げられた言葉に、思わず微笑んでしまう。
「それなら勉強、頑張らないとな。分からないところを教えてくれ」
太郎の初々しい発言が沈んでいた心を、少しだけ浮上させた。このあと俺は涼一に対して、何が出来るだろうか――
勉強を教えながら、脳裏でそのことばかり考えてしまい、結局答えが出なかった。
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