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ピロトーク:ピロトークを聴きながら⑤

***  自宅に帰って涼一とふたり並んで、カレーの下ごしらえをし、仲良く料理を作った。そして食事中に今後のことについて、話し合ったのだが、声色に元気がなく、沈んだままで心配になる。 「涼一、仕事のことなんだけどさ。今回は急病ってことで、落とすことにしたから」 「落とすなんて、そんな……僕は書けるよ、大丈夫だから」 「そんな精神状態じゃ、いいのが書けないって。頼むから、俺の言うことを聞いてくれ」  涼一に向かって、丁寧に頭を下げた。  仕事に対してプライドのあるヤツだからこそ、締め切りギリギリでも、意地で最後までやり遂げようとする。そんなガンコさが、今回は仇になってしまうな。 「分かった。迷惑かけて、本当にゴメンね……」 「何、言ってんだ、今回は俺が人選ミスしたんだ。謝るのはこっちだろ?」 「でも――」 「連載続きで、煮詰まってるトコもあったし、ちょうど良かったのかもしれないって。旅行に行ったらもっと、いいネタがあるかもしれないぞ?」  そんな風に明るく誘ってみたが、首を縦には振ってくれなかった。  そしてその夜――  一緒に寝ると疲れるだろうから、別々のベッドにて就寝。昼間のこともあり、何となく寝付けずにいたら―― 「ううっ…ひっ…ん……っ、くっ……」  苦しそうなうめき声が、涼一の部屋から聞こえてきた。慌てて駆け寄って傍に行き、様子を見ると夢を見て、苦しそうにうなされてるようだった。 「涼一っ、涼一……大丈夫か?」  抱き起こして、身体をぎゅっと抱きしめてやると、ふっと目を覚ます。 「……郁也さ……どうして?」 「お前、夢見てうなされていたぞ。怖いものを見たのか?」  落ち着かせるように背中を撫でてやると、体重を俺にかけて、ゆったりともたれかかってくれた。汗でくっついている額の前髪を、そっと撫でてやる。 「……昼間の出来事が、フラッシュバックして。鳴海さんのセリフが、いちいち頭にこびり付いているんだ。小田桐センセの壊れて行く様も、ついでに見せてもらうよ。そのキレイな顔がどんな風になるのか、じっくりと楽しませてもらうから』なぁんていうのも、あったっけ」 「やめろよ、そんなの忘れろ……」 「ねぇ僕って、フェロモンがだだ漏れしてる?」  自嘲的に笑って、俺を見上げた涼一。そんな辛そうな笑み、見たくはない。 「男を惑わすフェロモン、だだ漏れしまくっているらしいよ。何でも髪をキレイに伸ばせる男性は、女性ホルモンが普通の男性よりも出てるんだって」 「やめろって!」  声を荒げた俺に、身体をビクつかせる。  しまった――怖がらせちゃ、いけなかったんだった。 「悪い……つい怒鳴っちまった。涼一が怖い思いをしたっていうのに、俺が怖がらせてどうするんだ、まったく――」 「――郁也さん。さよなら、しようか……」  その言葉に、くっと息を飲む。突然何だっていうんだ!?  一瞬錯乱したものの、気を取り直す。涼一は薬の副作用で、精神状態がかなり不安定になってるだけなんだ。 「ばっ、バカなこと言ってんじゃねぇよ。ショックなことがあって、混乱してるだけだお前は。今夜は傍にいてやるから、安心して寝ろ。な?」  強引に身体をベッドに横たえさせて、添い寝をしてやる。俺の胸元に顔を寄せて、瞳を閉じた涼一。労わるように、背中をポンポンしてあげた。  この日は無事に話は終了して、涼一自身も落ち着いて、眠ることが出来た。

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