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桃瀬画伯のお絵描き講座だよ

***  小説の執筆で、思いっきり煮詰まってしまった僕。ここは気分転換したほうがいいと、すぐさま判断して、郁也さんに声をかけた。 「郁也さん、今、暇かな?」 「ああ、どうした?」 「あのね、この間言ってた、お絵描き講座やってほしいなって」  いそいそしながら、紙とペンを手渡す。 「実は僕、もう描いちゃったんだけど」 「何を描いたんだ?」 「……周防さん。身近な人物なら、特徴捉えやすいかなって思ったんだ」 「確かに身近な人間なら、特徴を捉えやすいよな。周防がモデルか、う~ん……」  しばし白紙を見つめ、意を決してから、さらさらっと描き始めたのだけれど。 「いっ、郁也さん、ちょっと質問っ! どうして目から描いてるの?」  普通は顔の輪郭を描いてから、目などのパーツを描くと思うのに。 「だってよ、その人が持つ、一番の特徴だから。大事な部分だから、最初に描いてるんだ」  うーん、言ってることは間違っていないと思うんだけど。そこから描くと、輪郭のバランスとるのが、すっごく大変じゃないのかな。  僕の心配を他所に目を描き終えると、慣れた手つきで輪郭を描き、鼻やその他の顔のパーツを描き始める。  もう誰が何といおうと、郁也さんワールドの絵が、どんどん展開されていき―― 「よしっ! いいのが出来た。周防に見せてやりたいぞ」  なぁんて自信満々に言い放つ郁也さんに、僕は微笑んであげる。 (実際は苦笑いかも) 「あは、ははは……周防さんの特徴、ちゃんと描かれているね。すごいや」  最後の恋の最初の表紙を元に、描いたらしい絵なのだけれど、もう何て言っていいのか、分からないΣ(|||▽||| )  いつもこの絵は、目から描かれてるから、絶妙なバランスが保たれているんだなぁ。  なぁんてことを絵をじっくり見て、考え込んでしまった。 「それよりも、涼一のを見せろよ」 「あ、うん。これだよ」 「何だよ、この出来は……」 「えっと、サラサラって描いてみました」 「しかもこれ、逆だろうが」 「逆って何が?」  ムスッとした郁也さんは、僕が描いた周防さんに、ばしばしっと指を差す。 「何でこんなに、周防がたくましいんだ。どうして太郎が女々しく描かれているのか、理解できないぞ」  その言葉に、ワケが分からず首を傾げるしかない。 「だって周防さん、年上だしさ。それに、しっかりとリードしてるじゃないか。僕の中では、こんなイメージなんだけど――」 「タケシ先生、抱いてよー」 「何、言ってんだ、このバカ犬が。今は仕事中だから、あとでな」 「やだやだ、寂しい。構ってってば」 「……ダメだ、諦めろ」 「じゃあ抱きしめてくれたら、ガマンする――」 「しょうがないヤツ、分かったよ」  そして、太郎くんをぎゅっとしてから。    優しい周防さんはついでに、ちゅってしてあげちゃうんだ、きっと―― 「お前……その絵ひとつで、よくもそれだけ話を展開できるな」 「お仕事が作家なんで、当然のことかと思います」 「だが華麗に話が作れても、掛け算が間違っていたら、本人たちが可哀想だ」  郁也さんが腕組をして、じっと僕の顔を見る。 「掛け算って?」 「周防たちの場合、太郎が襲うほうなんだ。世間様が言うと、年下攻めってヤツだっけな」 「∑o(*'o'*)o ウオオォォォォ!! 周防さんが襲われちゃうの!?」  自分が描いた絵で、それぞれの立ち位置を変えて、しっかりと妄想してみる―― 「タケシ先生、いきなり抱きついてきて、どうしたの?」 「……ちょっとだけ寒かったから、くっついてるだけ」 「患者の子どもから、風邪でも貰ったんじゃねぇの? 熱は大丈夫?」 「ない、と思う……」 「いつまで、この状態でいるワケ? くっついてるだけじゃ、あったまらないと思うけど」 「…………」 「まったく――素直に抱いてって、言えばいいだけなのに。毎回手の込んだウソ、つくんだから」  そしてふたりは仲良く、寝室に消えていくのであった。    .....ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ♪  そんなイメージが、頭の中に浮かんだ。 「涼一のイメージどおりじゃねぇの。周防が、主導権を握りしめてるように見えるけど、実際は太郎に弄ばれてるからな」 「うーん、そうなんだろうけど。僕はどっちかっていうと、太郎くんが弄ばれてるように見えるんだよね」 「そうか?」 「うん。だってちゃんと周防さんのいう事、太郎くんは聞いてるじゃないか。周防さんがリードしているって」 「まぁ……時と場合により、だろうがな」  僕たちの話が、このあと現実化するなんて、思いもよらなかった。  周防さんのいう事を聞く、太郎くんが見られる、かも?

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