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新婚さんごっこ(涼一目線)
「お帰りなさい……Σ(゚д゚;) ヌオォ!?」
帰ってきた音がしたので振り向くと、そこには変な笑みを浮かべた郁也さんがいた。
「ただいまぁ涼一ぃ、寂しかったのか?」
いつものように(冷たく)出迎えたのに、そんなの無視して、ぎゅっと抱きついてくる。
「ちょっ、いきなり抱きつかないでよ。外から帰ったらまずは、しなきゃならないことがあるんじゃないの?」
「おっと、そうだった。締め切り前の大事な時期に、バイキンを持ち込んだら、大変だもんな」
いそいそ台所に行き、手を洗う。それを見つつ抱きつかれたところを、さっさと払い落とした。
――郁也さんのテンションがオカシイ――
オカシイというよりも、恐ろしいと表現したほうが、いいかもしれないな。こういうときは間違いなく、大変なお願い事をしてくるのが、目に見えるから。
何も知らないという表情を浮かべて、衝撃(いや笑劇?)に備えよう……
うきうきした郁也さんをしっかり無視して、目の前にあるノートパソコンに、視線を釘付けにした。
コワ━━━((;゚Д゚))━━━!!
ひたひたと足音を立てながら、やって来る郁也さんの気配に、かなぁりビビリながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「涼一、あのさ」
その場に、いきなり正座して話し出したので、仕方なく顔を付き合わせる。
「…………」
「……そんな顔されると、言い出しにくい」
「変なお願いなら聞かないよ」
「変じゃねぇよ、ただの新婚さんごっこだ」
ミ(ノ_ _)ノ=3 ドテッ!!
「し、新婚さんごっこ!?」
一体全体、何がどうしたって言うんだ。混乱するのは、郁也さんが描く絵だけで充分なのに!
「おお、新婚さんごっこしようぜ。周防たちに負けないくらい、熱々のカップルに――」
「ちょっと待って! 何故にそこで、周防さんの名前が出てくるの? 話が全然、見えないんだけど」
郁也さんの目の前に、手のひらをかざして会話を止めて、ぶち切られている話の筋を、問いただしてみた。
「太郎がな、周防にお医者さんごっこを提案したんだ。あ、周防は患者役で。なんだか、いい雰囲気になったようなんだ」
ポケットに入れてたスマホを取り出して、メールを見せてくれる。
おおっ、これは珍しく周防さんが郁也さんに対して、自慢していると思われる文章だな。
しかも、お医者さんごっこという結構ハードルが高いモノを、頑張ってやったんだな、あのふたり。太郎くん自体、そういうことが得意そうだしね(´ー+`)キラッ
「で、それに対抗しようと郁也さんは、新婚さんごっこを提案したんだね」
「おぅよ! 負けてらんないだろ。無敵カップルとしてよ」
鼻息荒くして、語らってくれてもな――
「僕はイヤだよ。裸エプロンで、キッチンに立ったりするの」
渋い顔して言ってやったら、目を見開いて首を傾げた。
「(。´・д・)エッ 何でそこで、裸エプロンが出てくるんだ?」
「(;゚д゚)ェ. . . . . . .」
だってだって、お医者さんごっこに対抗しようとしたら、必然的にそうなるよ、絶対に!
それとも卑猥なことを考えてるのって、僕だけだったりする!?
「どっ、どうして新婚さんごっこしようと思ったの郁也さん?」
裸エプロンのことは忘れてもらうべく、必死になって話を逸らす作戦を展開!
「……お医者さんごっこよりも、甘いモノって考えた結果だぞ。何か違っているのか?」
「いやいやっ、そうなんだ。そりゃあ甘いよね、新婚さんは!」
(〃゚д゚;A アセアセ・・・
んもぅ頭の中、某番組の音楽が流れてるよ。新婚さんいらっしゃ~いのヤツ……
「涼一お前、俺の裸エプロン姿が見たいのかよ?」
うがぁΣ(|||▽||| ) またまた、裸エプロンネタが出てしまった。
( ̄▽ ̄)ニヤニヤしてる郁也さんに、どう弁解したらいいのか――うおぅ、頭の中にぼんやりと、郁也さんの裸エプロン姿が浮かぶ。
それを(*`ロ´ノ)ノえいやっと、右から左に受け流してやるのだ!
「みっ、見たくないよ。それよりも新婚さんごっこって、何をするのかなぁ?」
後頭部をバリバリ掻きながら、裸エプロン姿でいちゃいちゃしようとする、郁也さんの妄想を打ち消しつつ、必死になって話を逸らしまくった!
きっと僕の考えてる新婚さんごっこと、郁也さんの考えてることは、ズレがあるに違いない――それは小説家という職業病のせいなんだ、そうに違いない!
僕がエロいからだという理由じゃないんだと、声を大にして言ってやるぞ!
頭の中で格闘している僕を尻目に、腕を組んで難しそうな表情をした郁也さん。
「……改めて考えると、普段していることばかり浮かんでしまうのは、どうしてなんだ?」
「エ━━━(;゚д゚)━━━・・?」
「や、ほらよ……朝、起きたら、涼一おはよって言ってから、ちゅってしてるだろ。他にも、いってらっしゃいの、( 。-_-。)ε・`*)チュッとか、お帰りなさいの――」
「それ、してないよね僕。もしかして……」
今だって出迎えずに、リビングで振り向いただけなのだ。いってらっしゃいのキスだって、気が向いたときだけ、してあげてる程度。お風呂も別々なのである。
導き出された答えに額に手を当てて、郁也さんを見たら、しまったと顔に書いてあった。
「僕とイチャイチャしたいんだね? だから、新婚さんごっこなんて考えついたんだ、きっと」
「べっ、別にいちゃいちゃしたくて、言ったんじゃねぇって。ただ俺は涼一と、その……」
両手の人差し指と親指を、意味なく動かしながら、窺うように僕を見る視線。
何だかなぁ、もう――
「それに、人と比べて仲のよさをアピールしようっていう考えが、やっぱり気に入らないな。僕らは僕らでしょ、郁也さん」
意味なく動かしている手を取ってやり、ぎゅっと握りしめてあげた。
日頃お互いに忙しくて、すれ違ったりしているけれど、暇を見つけては、コッソリと僕のことをデッサンしたり、変な提案して困らせてくれたり。
不器用だけど一生懸命な郁也さんが、僕は大好きなんだ!
「涼一?」
「新婚さんごっこ、しょうがないからしてあげるよ。明日の朝、楽しみにしててよね」
ニッコリ微笑む僕に、ぱあっと笑顔を浮かべた、郁也さんの顔が眩しかった。
今、思い浮かんだネタで、すっごく大変だけど朝一でやってみようと、心の中で決意したのだった(・∀・)
そしてまた郁也目線に続くのであった。
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