74 / 87

アソパソマソ

 夏休み子ども映画劇場――  毎年この時期になると、映画会社が配給する作品を大々的に宣伝すべく出版社は、映画公開時期に合わせて、自社雑誌で特集やインタビューを組んだり、本屋に並べる原作本の帯に映画宣伝を入れたり、協力をする事をするのだが。 「ジュエリーノベルにアソパソマソの宣伝を、どうやって入れるんですか?」 「そうなんだよ。どうやってタイアップするか――誰か、いい案ないか?」  アソパソマソは、小さいコ向けのアニメで、大活躍しているキャラクター。  地球の平和を守るため、悪さをするウザいコバエマンと戦ったり、ときには自分の頭をちぎって、弱っている人を助けたりする、心優しいヒーローなのであった。  ジュエリーノベル自体、幅広い層に読んでもらうべく、いろいろと趣向を凝らして、小説を掲載しているが、さすがにそこにアソパソネタを突っ込むのは、ケンカ上等に近いんじゃないだろうか。  はぁと小さくため息をつき、企画用紙の裏にこっそりと、アソパソマソを描いてみる。  以前、周防の病院でドラ○もんを描いた際に、女のコに泣かれてしまったという、痛い経験をしているので、このアソパソマソを、 「どうだ! この絵を宣伝に使ってみたら?」  なぁんていう、厚顔無恥な事は出来ない。誰かすっげーいいことでも、提案してくれないかなぁと、ペンを走らせていると―― 「おい、何を必死に描いてるんだ?」  俺の行動を不審に思ったのか、三木編集長が席を立ち、わざわざ俺のところまでやって来て、企画用紙をさっと手早く取り上げた。 「わっ!? それはダメですって!」 「……いや。とりあえずコレに色を塗れ、桃瀬。よく分からんが、何か浮かびそうな気がする」 「エ━━━(;゚д゚)━━━・・」  絵に関して頼まれるのは、出版社で行われる飲み会以来である。しかもこれは、マジメな仕事の話なのに。 「いいから早くやっつけろ! お前の独創的なそれが、俺の頭に何かを教えてくれそうなんだ」  銀縁メガネを光らせ、きーっと怒る編集長に恐れをなして、手早くかつ丁寧に彩色していった。 「出来ました。これどうぞ……」  恐る恐る手渡したら、むむっと唸って顎に手を当て、考え始めてくれる。  やがて―― 「こういう感じで、本物のアソパソマソをポスターにして、それを広告として雑誌に載せたら、それでいいんじゃないか?」  言いながら、俺の描いた絵を皆に見せた。 「えっと……爽やかな感じが、読者心をそそるかと」 「確かに……何ていうか、正義感やいろんな物が、沸々と見えそうですよね」 「自分を分け与えているところに、若干共感するような」  他にもいろんな意見を言ってくれた社員たち。だが、どうして口を揃えたみたいに、揃いも揃って、しどろもどろなんだ? 「やったな、桃瀬。お前のお陰で、何とかなりそうだ、感謝するぞ!」  優しい編集長の言葉に、胸に何かがこみ上げる。もしかして、この絵は子どもたちに、受け入れられるかもしれない。  今度、周防の病院に行ったとき、試してみようと思った、ある日の出来事でした。  めでたし めでたし

ともだちにシェアしよう!