73 / 87
新婚さんごっこ職場編
早く、昼飯時にならないかな――
デスクの隅っこに置いてある、涼一が作ってくれた包みを何度も見てしまった。
「おい、全然進んでないじゃないか。桃瀬らしくない、手が止まってるぞ」
声をかけながら、何度も肩を叩いてくる。
珍しく注意され、すみませんと言って振り向くと、三木編集長が意味深な笑みを浮かべていた。
――こういうときは、絶対ヤバイ――
「何だよ、僕が傍に来たら、何かマズいことでもあるのか? そんな顔してくれちゃって」
「いえ……別に。ついでに、この進行表のチェック、お願いします」
変なツッコミを入れられる前に、さっさと仕事を手渡した。
「ん~~~、いいんじゃないか。はい、キャッチandリリース」
おい、5秒で終わらせるとか、きちんとチェックしてないだろ。
「桃瀬ぇ、そんな不審そうな目で見るな。お前が事前にチェックしてるの、ちゃんと分かっているし、安心して任せているんだから」
「だけど――」
「何かあったら僕の責任。どーんと大船に乗った気持ちで、仕事をしてくれたまえ!」
いつものように盛大に笑い飛ばし、疲れきってクタクタになってる、周りの連中がそれを見て、苦笑いをしている。
「それとちょっと気になる物、(σ`з´)σ見ぃ~けっ!」
あっと思ったときには編集長の手に、デスクに置いてあった包みが、しっかりと握られていた。
「何だよぅ、仕事が手に付かなくなるくらい、愛妻弁当が気になるのかぁ?」
この人、弁当の存在を分かっていて、最後にツッコミ入れたな……
「……はぁ、そうですね。初めて作ってくれましたし」
「いいなぁ。僕なんて最初だけだっだぞ」
「若い奥さん、編集長の介護で、きっと疲れているんですね」
仕事でかけているメガネを外し、にやっとしながら言ってやった。
三木編集長が高校教師だった頃に、出逢った生徒と結婚したんだから、10歳以上は離れているハズ。
「介護って僕は手のかからない、出来た旦那をやってるから! てか、この包みの中身、異常に重たいけど、何が詰まっているんだ?」
「いろんなオカズと愛情が詰まってる、おにぎりです」
どんなオカズが出てくるのか、楽しみでもあり恐怖でもある(苦笑)
「そんだけ詰まっているなら、重たくて当然だな。そんでもって帰ったら裸エプロンで、お出迎えだったりして?」
ん? また出たな。裸エプロンって言葉――
「編集長の奥さんはそれ、してくれたんですか?」
「そんなの、してくれるワケないだろ」
してほしかったけどさ。とブツブツ呟き、恨めしそうに見つめてから、弁当を返してくれた。
「いいじゃないですか。もう編集長は教師という立場を振りかざし、いたいけな生徒に手を出すプレィを、思いきり楽しんだんですし」
「おまっ、変なこと言うなよ! 手を出してないぞ、きちんとプラトニックで通したんだからな! 変な噂、してくれるな!」
真っ赤な顔して言っても、説得力が0である。
(実際、押し倒したり、アレコレしてるクセにby尚史)
「はいはい、信じますよ。クソ真面目な、三木編集長ですもんね。自称、ですけど」
くるりと椅子を反転させ、この話は終わったとばかりに仕事を開始したら、ため息をついてその場を去っていった。
その2時間後、待ちに待ったランチタイム。
恐るおそるアルミホイルを開き、黒い塊に口をつける。
「……ジャリっていったぞ。どんだけ塩をつけまくったんだろ」
塩辛い愛情を舌で堪能しながら、ひょっこり出てくる卵焼きや、焼肉のタレを使って焼かれた肉の破片、冷凍のコロッケなどなど、バリエーション豊かなオカズとご飯を、しっかりと味わった。
そして不意に、三木編集長の言葉を思い出す。
「裸エプロン……」
可愛いエプロンを裸で身につけ、赤い顔してキッチンに立ってる涼一を、ぼんやりと思い浮かべる。
( ̄TT ̄)鼻血ぶー
「こ、これのお礼にだな、エプロンをプレゼントするのは、どうだろうか?」
その絵を画集に載せたいけれど、大人の事情でダメだよなとあっさり諦め、自分だけで堪能すべく、帰りに可愛いエプロンを購入した郁也。
しかし聡い涼一は、それが何を意味するか直ぐに察知し、絶対に裸では着てくれませんでした(・∀・)
めでたし めでたし
ともだちにシェアしよう!