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新婚さんごっこ職場編

 早く、昼飯時にならないかな――  デスクの隅っこに置いてある、涼一が作ってくれた包みを何度も見てしまった。 「おい、全然進んでないじゃないか。桃瀬らしくない、手が止まってるぞ」  声をかけながら、何度も肩を叩いてくる。  珍しく注意され、すみませんと言って振り向くと、三木編集長が意味深な笑みを浮かべていた。  ――こういうときは、絶対ヤバイ―― 「何だよ、僕が傍に来たら、何かマズいことでもあるのか? そんな顔してくれちゃって」 「いえ……別に。ついでに、この進行表のチェック、お願いします」  変なツッコミを入れられる前に、さっさと仕事を手渡した。 「ん~~~、いいんじゃないか。はい、キャッチandリリース」  おい、5秒で終わらせるとか、きちんとチェックしてないだろ。 「桃瀬ぇ、そんな不審そうな目で見るな。お前が事前にチェックしてるの、ちゃんと分かっているし、安心して任せているんだから」 「だけど――」 「何かあったら僕の責任。どーんと大船に乗った気持ちで、仕事をしてくれたまえ!」  いつものように盛大に笑い飛ばし、疲れきってクタクタになってる、周りの連中がそれを見て、苦笑いをしている。 「それとちょっと気になる物、(σ`з´)σ見ぃ~けっ!」  あっと思ったときには編集長の手に、デスクに置いてあった包みが、しっかりと握られていた。 「何だよぅ、仕事が手に付かなくなるくらい、愛妻弁当が気になるのかぁ?」  この人、弁当の存在を分かっていて、最後にツッコミ入れたな…… 「……はぁ、そうですね。初めて作ってくれましたし」 「いいなぁ。僕なんて最初だけだっだぞ」 「若い奥さん、編集長の介護で、きっと疲れているんですね」  仕事でかけているメガネを外し、にやっとしながら言ってやった。  三木編集長が高校教師だった頃に、出逢った生徒と結婚したんだから、10歳以上は離れているハズ。 「介護って僕は手のかからない、出来た旦那をやってるから! てか、この包みの中身、異常に重たいけど、何が詰まっているんだ?」 「いろんなオカズと愛情が詰まってる、おにぎりです」  どんなオカズが出てくるのか、楽しみでもあり恐怖でもある(苦笑) 「そんだけ詰まっているなら、重たくて当然だな。そんでもって帰ったら裸エプロンで、お出迎えだったりして?」  ん? また出たな。裸エプロンって言葉―― 「編集長の奥さんはそれ、してくれたんですか?」 「そんなの、してくれるワケないだろ」  してほしかったけどさ。とブツブツ呟き、恨めしそうに見つめてから、弁当を返してくれた。 「いいじゃないですか。もう編集長は教師という立場を振りかざし、いたいけな生徒に手を出すプレィを、思いきり楽しんだんですし」 「おまっ、変なこと言うなよ! 手を出してないぞ、きちんとプラトニックで通したんだからな! 変な噂、してくれるな!」  真っ赤な顔して言っても、説得力が0である。 (実際、押し倒したり、アレコレしてるクセにby尚史) 「はいはい、信じますよ。クソ真面目な、三木編集長ですもんね。自称、ですけど」  くるりと椅子を反転させ、この話は終わったとばかりに仕事を開始したら、ため息をついてその場を去っていった。  その2時間後、待ちに待ったランチタイム。  恐るおそるアルミホイルを開き、黒い塊に口をつける。 「……ジャリっていったぞ。どんだけ塩をつけまくったんだろ」  塩辛い愛情を舌で堪能しながら、ひょっこり出てくる卵焼きや、焼肉のタレを使って焼かれた肉の破片、冷凍のコロッケなどなど、バリエーション豊かなオカズとご飯を、しっかりと味わった。  そして不意に、三木編集長の言葉を思い出す。 「裸エプロン……」  可愛いエプロンを裸で身につけ、赤い顔してキッチンに立ってる涼一を、ぼんやりと思い浮かべる。  ( ̄TT ̄)鼻血ぶー 「こ、これのお礼にだな、エプロンをプレゼントするのは、どうだろうか?」  その絵を画集に載せたいけれど、大人の事情でダメだよなとあっさり諦め、自分だけで堪能すべく、帰りに可愛いエプロンを購入した郁也。  しかし聡い涼一は、それが何を意味するか直ぐに察知し、絶対に裸では着てくれませんでした(・∀・)  めでたし めでたし

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