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魔王の城-1-
一面に鈍色の雲が立ち込める空の下、魔物が住まう樹海を抜け視界が利かないほどの霧を進むとそこには魔王の城が禍々しく聳《そび》え立っていた。
黒く短い髪に野生的な顔に獣のような漆黒の双眸の騎士は隙も乱れも無い足取りで城へと近付き、長身の上鋼のような体躯を持つ騎士に比べやや華奢に見えるものの鍛え上げられバランスの良い体躯の魔術師もそれに続いた。
一メートル先すら見えない状態で気配だけを頼りに進むと淡い光が目に入った。
白銀の髪を肩口で切りそろえ、左の一房だけを胸までの長さに残し三つ編にして垂らしている怜悧な美貌の魔術師は無表情なまま無遠慮に光の元にいる門番へと近寄った。
「ヴェグル国の使者です。魔王に取次ぎをして頂きたい」
目の部分だけが開いた薄気味悪い仮面を被り、フードを被った門番は無言のまま一礼すると掌に光の玉を出現させた。光の玉は門番の手から離れると天高く上がり次いで城の方へと飛んで行き、暫くすると虎口《こぐち》から右目を眼帯で覆った中性的な顔立ちの人型魔物が出てきた。
眼帯で覆われていない方の目で二人を舐めるように眺め、妖しい微笑を張り付かせている。
「ヴェグル国の使者たる証と名前をどうぞ」
魔物の求めに応じ、白銀の魔術師は胸元から王の紋章入りペンダントを出すと「イグル・ダーナ」と名乗り、黒曜の騎士も胸元からペンダントを見せ「ログ・エル・シュルツ」と名乗った。
眼帯の魔物は使者の証を調べる事も持ち物検査をする事もなく二人を虎口へと誘導し、あっさりと場内へ招き入れた。
正面玄関は薄暗く壁に設置された無数の蝋燭はゆらゆらと妖しく蠢いている。じめじめとカビ臭い廊下を進むにつれ何処からとも無く人の呻き声やすすり泣く声が聞こえた。魔王に捕らえられ日の光を見る事も許されない者たちのものだろうと、不憫には思ったが二人はそれらを無視し歩みを進めた。
不意に別塔から壮絶な叫び声が上がりほんの一瞬意識をそちらへと向けると眼帯の魔物は歩みを止め振り返る。
「興味がおありでしたら後で見学いたしますか?」
嬉しそうな声で問われ、二人は無言でいるとそれを答えと解釈した魔物は「つまらない人たち」と一人零し再び歩みを進めた。
魔物と使者二人は無言のまま暫く歩く。暫くして重厚な扉の前に辿り着いた。
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