29 / 275

そして、嫉妬 6話

別に驚きはしない。  「そう…」 豊川は冷静に返事を返す。 「帰る…」 小さく呟くように言ったyoshiは向きを変える。 「送って行くよ」 豊川はとっさに腕を掴んだ。  掴んだ手は微かに震えていて、一人では帰せない!そう感じた。 スタジオから出ようとした時にナオがこちらへ向かって来ているのが見えた。  途端にyoshiはホッとする。  「ナオ、どこに?」 行ってたの?と続けようとするが拓海の姿が目に入り、思わず顔を伏せた。 拓海はナオの横を通過ぎて、yoshiの横も静かに通り過ぎた。  拓海が通り過ぎる時に彼の首筋が目に入った。  服に隠れたように一瞬見えた赤い跡。  思わず、ナオの首筋にも視線を向けた。  シャツのボタンがさっき見た時よりも2つ程外されて、その隙間から見える拓海と同じ赤い印。  キスマークだ。  居なくなった間、二人で…。 考えたくも無い。  「帰る」 yoshiはそう言って歩き出す。 「送って行くから」 「yoshi、急にどうした!」 豊川とナオが同時にyoshiの行く手を邪魔をする。 ここにはもう居たくない。  拓海の顔を見たくない。 黙って歩き出そうとするyoshiに、  「ちょっと放置されただけでご機嫌ななめになるなんてお子ちゃまだよね嘉樹くん」  拓海が嫌みを言う。  振り返りたくはないyoshiが言い返すのを我慢して、歩き出そうとする。 「見学して行きなよ。」 拓海はいつの間にかyoshiのすぐ後ろに居て、腕を掴んで来た。  振りほどこうと拓海を睨むと、  「先に帰るんなら直さんは俺のマンションに連れて行ってもいいよね?続きやりたいし」 とyoshiにしか聞こえない小さな声でそう言った。 続き?  続きって、ナオと…  恋人同士だから、当たり前の行為。  生々しい赤い印を見た後にナオを拓海のマンションへ行かせたくないと思ってしまった。  行かせてしまったら、帰って来ないんじゃないかと不安になる。 固まるyoshiに、  「珍しいだろ、撮影なんてさ」 ニッコリとテレビで見る爽やかな笑顔を見せた。 「見て行くよね?」 もう一度聞かれ、yoshiは頷くしか無かった。  yoshiは仕方なく戻る。 「どうした?具合悪いのか?」 黙り込むyoshiを心配したようにナオが顔を覗き込んでくる。  理由を言えるわけもなく、yoshiは何でもないと答えた。 撮影はまだ再開されないようでスタッフがコーヒーを配っていた。  「はい」 yoshiの前にコーヒーが差し出された。  コーヒーを差し出したのはニッコリと微笑む拓海。  「要らない」 とそっぽを向く。  「ブラックだから飲めないかな?お子ちゃまだもんね」 と拓海はニヤニヤしながら言う。  わざと怒らせるような事を言ってくる拓海が疎ましくて、その場を離れようとした瞬間、  「熱っ」 短い声がして足にコーヒーが入った紙コップが落ちた。 yoshiは一瞬何が起こったのか分からなかったが、 「拓海!大丈夫か?」 とナオの声で、拓海の手にコーヒーがかかって、床に落ちたコーヒーは拓海が手にしていたものだと理解した。 理解したが、何故、拓海にコーヒーがかかったのか分からない。  「水で冷やそう」 ナオが拓海の腕を取る。  周りが気付きざわついた時に、  「要らないからって手を弾く事ないだろ?おかげでコーヒーがかかった」 拓海の口から信じられない言葉が出た。  「えっ?」 yoshiはきょとんとなり拓海が言った言葉が理解出来なかった。  「yoshi…」 ナオが信じられないと言うような顔でyoshiを見る。 「何言って…俺、なにも」  何もしていないし、触りもしていない。  なのに拓海はどうして、そんな事を言うのだろう?  「話しは後で聞くから」 ナオはそう言うと拓海を連れてスタジオから出て行った。  ナオ、…拓海の方を信じたの?  いつも庇ってくれていたナオがアッサリと拓海の嘘を信じた。  やっぱり嫌いだ。  立ちすくむyoshiの手を握ったのは豊川。  「君はかかっていない?」 心配そうにyoshiの身体を見てくれた。  大丈夫と首を振ると、豊川は頭をポンポンと軽く叩いて、  「火傷しなくて良かったな」 と笑う。  他のスタッフは拓海を心配するように彼の方へゾロゾロと行ったのに豊川は側に居る。  ナオでさえも…拓海の方へ行ったのに。 

ともだちにシェアしよう!