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そして、嫉妬 7話
泣きそうになる。 でも、泣かない。
馬鹿みたいだから、負けるみたいで嫌だから。
「大丈夫?」
もう一人、側に居てくれる人が居た。
リナだ。
「あいつ、わざとやったわね」
リナはかなり怒っていた。
「あの言い方じゃ嘉樹くんがやったみたいじゃない?抗議してくる」
リナは鼻息荒くそう言う。
いいよ。と断ってもリナは任せて!と意気込んで行ってしまった。
強い人だなあとyoshiはリナをそう感じた。
リナが意気込んで行った方向と逆の方から男性が走って来た。
「あ、居た!君、ちょっと来て」
男性はyoshiの腕を掴んだ。
「えっ?」
誰?と男性に戸惑うと、
「何の用だ」
と豊川が間に入った。
「拓海が、…君が拓海にコーヒーかけたんだろ?君が謝るまで撮影しないって拓海が言い出して」
男性は拓海のマネージャーだった。
手当をしていると、拓海がそう騒ぎ出したから困っていると、
「行かなくていい」
困惑しているyoshiに豊川がそう言った。
拓海はどうして、そんな嘘を言って騒ぎ立てるのだろうか?
あからさまな敵意。
「でも」
困っているマネージャーに豊川は、
「この子は謝る事はしていない。コーヒーは拓海が自分でかけたんだ」
ハッキリ言った。
ハッキリ否定した豊川はあの時、後ろを向いて見ていないのに、リナの一言を信じたようだ。
「そんな、拓海は撮影しないって、撮影まだ残ってるんですよ!困るんです」
泣きそうな顔で豊川に縋るマネージャーを見て、yoshiは、
「拓海どこに居るの?」
と聞いた。
「やってもいない事を謝る必要はない!拓海のわがままなんだからほっといて良い」
豊川はyoshiにそう言って、マネージャーに戻るように言う。
「謝るんじゃないよ、何故嘘つくか聞くだけだから」
Yoshiは歩き出す。
拓海は自分が嫌い。
それだけの理由で騒ぐのだろうとyoshiは思った。
自分が嫌いなように相手も自分が嫌い。
嫉妬や憎悪。
少なからず誰も持っている感情。
◆◆◆◆◆◆
医務室かと思ったらそこはシャワーがある場所。
水で冷やすからここに来たのだろうか?
yoshiがそこに行くと、誤解をしているスタッフが冷たい視線でこちらを向く。
かなり騒いだのだろう。
しかも、そこに光一が居た。
会いたくない奴が何故ここに?
豊川も驚いたみたいで、
「光一お前何して…」
と声をかける。
「撮影スタジオ行く途中でナオを見かけて、それに…」
拓海が一緒に居たので気になったとは言えなかった。
「智也くんは?」
「マコトとジュース買いに行った」
智也がyoshiを連れて来たと知った時に喜んで抱きしめた後に、
「よし、ご褒美何がいい?」
と聞くと
「ジュース飲みたい」
と答が返って来た。
別の仕事を終え戻って来たマコトに頼み、一緒にジュースを買いに行かせた。
その後、スタジオに向かう途中、騒ぐ拓海とナオを見掛けたのだった。
「ちょい、社長も新崎さんも関係ないから黙ってて」
拓海が光一達の間に口を挟む。
それにより光一が思い出したように、
「yoshi、お前…コーヒーをかけたのか?しかもわざと」
と口にした。
何だか話にオヒレが付いているようでyoshiは嫌になった。
「アンタには関係ないだろ?」
拓海の言う一方的な話を信じてしまっている光一に腹が立った。
「社長んとこの新人、新崎さんにタメ口なんだね。甘やかし過ぎなんじゃない?」
拓海の嫌みに、
「俺、新人でも何でもないから」
と返した。
「へえ~、じゃなに?それより、コレどうしてくれんの?」
拓海は真新しい包帯が巻かれた手をヒラヒラさせる。
「火傷させたのなら謝らないと」
光一が言った後に、
「火傷はたいした事ないけど、原因を作ったのがyoshiならちゃんと謝らないと」
ナオまで、信じられない事を言い出した。
なんで?
なんで、拓海の方を信じるの?
「今度はだんまり?誰?こんな甘やかしたのは?」
黙り込むyoshiに拓海はさらに追い込むように言う。
「彼は謝る必要はない。」
豊川が拓海を睨む。
「ナオは…ナオは、拓海の事の方が…」
大事なんだ?
そう聞きたいのだけれどこれ以上言葉を言うと泣きそうになる。
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