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そして、嫉妬 8話
泣くな馬鹿!
自分に言い聞かせるように手の平でギュッと拳を握る。
「拓海ーっ!アンタいい加減にしなさいよね」
リナの叫ぶ声がした。
医務室まで拓海を捜しに行ったが見つからず、マネージャーに電話を入れて、この場所と騒ぎを聞いたのだ。
「あんた、自分でかけたでしょ?何が謝るまで撮影しないよ!謝るのは拓海よ!彼に謝らないのなら私も撮影しないわよ。力あるのはどっちの事務所かしら?それに、」
と豊川をちらりと見る。豊川の力も圧倒的に強い。
リナの迫力に拓海は笑い出す。
「冗談だよ。あんま可愛いから虐めたくなっただけだよ」
拓海の言葉に1番驚いたのは光一だった。
ヤバイ、
1番信じてあげなくてはいけないのに、疑うような事を言った。
yoshiに視線を向けると、 居なくなっていた。
えっ?いつの間に?
リナの迫力で彼女にばかり気を取られていたせいでyoshiが居なくなった事に気付かなかった。
◆◆◆◆◆
「待ちなさい」
走るyoshiを豊川の腕が止める。
ナオに信じてないの?と聞く前に逃げ出していた。
答を聞くのが怖かった。
拓海を信じると言われそうで怖くて逃げ出した。
逃げ出したyoshiを追ってきたのはナオでも光一でもなく豊川。
『離して』
余程、動揺しているのかyoshiが発した言葉は英語だった。
『いいから、来なさい』
『いや、戻らない!』
抵抗するyoshiの腕を掴み無理矢理歩かせて、 駐車場へ連れて来た。
拓海が居る場所に戻ると思っていたyoshiは思わず周りをキョロキョロした。
「おいで」
豊川は自分が所有する車まで連れて行くと、ドアを開けyoshiを助手席に座らせる。
「よく我慢したね」
豊川は頭を撫でた。
我慢?何を?
そんな事を考えていると、
「ずっと泣きそうな顔をしていた」
豊川はそう言って頭をずっと撫でてくれる。
小さい子供か?
なんて悪態をつきたいけれど、豊川の手が余りにも優しく温かいから、我慢していた涙が零れた。
涙が流れた瞬間、ふわりと香水に包まれた。
ギュッと抱きしめる腕の中、我慢していたものがパンと弾けたように泣き出した。
◆◆◆
「もう信じられない」
リナは光一の前で腰に手をあて、お怒りモード。
拓海の悪ふざけと言う事で騒ぎは治まった。
全てを見ていない癖に拓海の一方的な言い分を信じた光一に怒りが向いているのだ。
「いや、だってさ」
「言い訳しない!」
「はい」
リナに叱られ光一はしょんぼりしている。
「ねえ、まこちゃん…リナちゃんて強いんだね」
遠巻きに見ていた智也とマコトはリナの迫力で、光一には近付けない。
「ちゃんと謝りなさいよね」
「はい」
そう言っても一緒に居なくなった豊川にも連絡が取れない。
*******
「ナオさん、機嫌直してよ」
拓海は自分の前を黙って歩くナオに声をかける。
「ちょっと虐めただけじゃん」
拓海もやり過ぎたかな?と反省はしている。
だって、あの時の彼は泣きそうな顔をしていた。
自分の意地悪よりも直に言われた言葉で泣きそうだった。
何も言わない後ろ姿に、服の裾を引っ張り。
「ごめんなさい」
と拓海は謝った。
もし、自分がyoshiの立場ならきっと泣いていた。
大事な人に信じて貰えない事が1番堪えるから。
今も泣きそうな自分が居る。
あれだけ意地悪をしたくせに泣くのは狡いよな。
答えないナオに不安になる。
すると、ふわりと温かい腕が拓海を引き寄せた。
「いいよ、もう。」
そう言われナオの顔を見る。
いつも通りにの笑顔にホッとする。
「ちゃんとあの子に謝ってくれ」
ナオにそう言われ、素直に頷いた。
二人で歩き出す。
yoshiに電話しても出てくれない。
当然だろう。
傷付けたのだから。
光一の言葉よりも直の言葉に強く反応したyoshiを見て、 ナオは安心したのだ。
大事なのは実の父親よりも自分だと…あの時、確信した。
自分はもしかして狂っているのかも知れない。
あの時、 拓海と親しくする自分を見てヤキモチをやいているそぶりを見せたyoshiを見て嬉しかった。
自分しか居ないと感じた。
居なくなったyoshiが心配だったけれど、放って置けば置く程にyoshiの拓海へのヤキモチが増すんじゃないかと思ってしまった。
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