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インフルエンザ 7
食べ終わると、東城は、広瀬が着替えるのを手伝ってくれた。手足や顔を温かい蒸しタオルで拭いてくれる。至れり尽くせりで、広瀬の願いを何でもかなえてくれた。
広瀬を布団でつつみ、彼はおやすみ、と言った。
「今日は、俺が和室で寝るな。俺がこのベッドで寝たら、お前がゆっくり寝れないだろ。インフルエンザじゃなさそうだからうつりはしないだろうけど」と東城は言った。「むしろ、俺の風邪がお前にうつったんだよな」
そう言ってベッドから離れようとする彼のシャツを広瀬はつかんでとめた。
「なに?どうした?」
じっと彼を見ていると、東城がわずかに首をかしげる。
「一緒に寝たい?」
広瀬は、うなずいた。
東城は、優しい笑顔になった。
広瀬は、ベッドの中で東城の胸に顔をうずめた。東城の体温は暖かい。さらに熱が上がるような気もするが、それでも、気持ちがよかった。
「熱い」と東城が広瀬の足のつま先にふれた。「お前の身体。つま先まで熱い」
熱はあるが、苦しくはなかった。もう、頭痛もしない。よく眠れそうだ。
彼は、時々軽く咳き込む広瀬の背中をゆっくりとなでている。
「お前、弱っていると素直でかわいいな」と東城が言った。「だけど、早くよくなれよ。明日もこの調子で熱があったら、お母さんか美音子さんに来てもらうからな」
そんなことを言った。脅しの材料に使われていると知ったら、東城のお母さんと美音子さんは怒るだろう。
いつもはおしゃべりでうるさい東城が、静かに広瀬を抱いている。
キスがしたいな、と広瀬は思った。彼とのキスが広瀬は好きだ。軽いキスも、深い長いキスも、どれも好きだ。東城がキスが上手いかどうかは知らないけど、広瀬を溶かすことは確かだ。体温を1度くらいあげるような、激しいキスをしたい。
明日にはよくならなきゃ、と広瀬は思った。
東城は、冗談交じりに言ってはいるが、治らなければ本当にお母さんか美音子さんが来てしまいそうだ。
それに、そうだ。こう咳がでてはキスもできないのだから。
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