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インフルエンザ 6

電話が終わると、彼は、優しい声で広瀬に聞く。 「なにか欲しいものあるか?飲み物は?」 広瀬はうなずいた。 東城はドアにむかったが、途中で振り返る。 「そういえば、飯は?腹減ってる?」 広瀬はそれにもうなずいた。お腹はすごくすいているのだ。 「なに食べる?お粥?」 「お粥ですか」東城が作るのだろうか。それともレトルトのを買ってくるのだろうか。 いずれにしても、お粥はあまり好きではない。東城に食べさせた手前言うのもなんだが、あれは食べ物じゃなく飲み物だ。腹の足しにはならない。 広瀬の口調に東城は察した。「お粥は嫌なんだ」 「もう少し、違うものをちゃんと食べたいです」 「食欲は相変わらずだな。よかった。待ってろ」 彼は、寝室のドアを静かにしめて出ていった。 うとうとしていると、東城が戻ってきた。 「お待たせ」と言って、お盆を手にもっている。 お盆の上には白い大きな皿がのっていた。東城が見せてくれる。 お皿に入っていたのはパスタだった。とてもシンプルなパスタで、おろしたてのチーズがかかっているだけだ。だが、いい香りがするし、食べやすそうだ。 「パスタビアンカっていうんだって」と東城が言った。「風邪ひいたときに食べるパスタらしい。石田さんに電話したら教えてくれた」 身体を起こすのを手伝ってくれた。膝の上にお盆が置かれる。 「食べさせてやろうか?」と彼が言うのを、広瀬は断った。 パスタをみたら腹が猛烈すいてきて、東城がちまちまとフォークでパスタをすくうのを待ってはいられなくなったのだ。 広瀬はフォークをとってパスタをくるくる巻いて口に入れた。温かくて優しい味だ。塩分も舌に心地いい。 しばらく無言でむぐむぐ食べていた。 東城がスポーツドリンクを持ってきてくれる。 「熱があるときには、水分取れって母親が言ってた」 お礼を言いながら広瀬は、東城がグラスにそそいでくれたスポーツドリンクを飲んだ。

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