61 / 62
インフルエンザ 6
電話が終わると、彼は、優しい声で広瀬に聞く。
「なにか欲しいものあるか?飲み物は?」
広瀬はうなずいた。
東城はドアにむかったが、途中で振り返る。
「そういえば、飯は?腹減ってる?」
広瀬はそれにもうなずいた。お腹はすごくすいているのだ。
「なに食べる?お粥?」
「お粥ですか」東城が作るのだろうか。それともレトルトのを買ってくるのだろうか。
いずれにしても、お粥はあまり好きではない。東城に食べさせた手前言うのもなんだが、あれは食べ物じゃなく飲み物だ。腹の足しにはならない。
広瀬の口調に東城は察した。「お粥は嫌なんだ」
「もう少し、違うものをちゃんと食べたいです」
「食欲は相変わらずだな。よかった。待ってろ」
彼は、寝室のドアを静かにしめて出ていった。
うとうとしていると、東城が戻ってきた。
「お待たせ」と言って、お盆を手にもっている。
お盆の上には白い大きな皿がのっていた。東城が見せてくれる。
お皿に入っていたのはパスタだった。とてもシンプルなパスタで、おろしたてのチーズがかかっているだけだ。だが、いい香りがするし、食べやすそうだ。
「パスタビアンカっていうんだって」と東城が言った。「風邪ひいたときに食べるパスタらしい。石田さんに電話したら教えてくれた」
身体を起こすのを手伝ってくれた。膝の上にお盆が置かれる。
「食べさせてやろうか?」と彼が言うのを、広瀬は断った。
パスタをみたら腹が猛烈すいてきて、東城がちまちまとフォークでパスタをすくうのを待ってはいられなくなったのだ。
広瀬はフォークをとってパスタをくるくる巻いて口に入れた。温かくて優しい味だ。塩分も舌に心地いい。
しばらく無言でむぐむぐ食べていた。
東城がスポーツドリンクを持ってきてくれる。
「熱があるときには、水分取れって母親が言ってた」
お礼を言いながら広瀬は、東城がグラスにそそいでくれたスポーツドリンクを飲んだ。
ともだちにシェアしよう!