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第1話(幼馴染前編)
僕は長年、片思いをしてきた。
保育園から一緒で、高校生になった今でも、好きな相手。
その相手は、お分かりの通り、幼馴染でそして、男である。
そこまでは、どこの小説にも見かける、ただただ不毛な恋をしている苦い青春ストーリーの一ページに過ぎない。
本当にそうだったとしたら、どれほど楽だっただろう。
「高校生」という月日が立ち、毎日を送ることにしんどさや、絶望を感じていた。
通じない気持ちも、この淀んだ気持ちも、もう、疲れた。
「ガイ、なんでそんな朝に強いんだ」
「ショウがよわすぎなだけだよ」
僕の毎日は鬱々としていても、僕の大好きなショウの毎日も同じ時間が流れている。
だから、と言うと重い、と思われるかもしれないが、常に一緒にいることに義務感すら感じ始めている僕は、きっと、想い合えるような日をもう望んでいない。
ショウは、その義務感さえ煩わしく思っているだろうに。
「ガイ、あと五分で用意できっから待ってろ」
「待てるギリギリで起こしたんだから、あと五分は命取り。二分で家出るよ」
「っくそ!優しいんだかわかんねーよ」
「そんなこと言ってると、先、いっちゃうよ」
「わりぃって!」
口には歯ブラシを咥え、制服のネクタイをしめるショウは、どこかのできるサラリーマンのように決まっている。ううん、そこらのサラリーマンより、寝起きの新鮮な表情がカッコイイ。
僕より身長が高くて、爽やかで、それからなんといってもほどよくついた筋肉。
モデル体型のような身体にバスケで鍛えられた惚れ惚れする肉体美は、まさに彫刻のよう。
「よっしゃ!二分で準備してやったぜ」
「してやったって・・・・・・」
見とれている間ににかり、と笑うショウを眩しく感じながらいつもの通路に出る。
何でそんなに僕の前で笑っていられるの?
不思議なくらい僕と一緒にいて嫌な顔ひとつしない。そしてショウも僕といることを優先してくれる。
義務感に追われているのは、ショウの方じゃないか。
営業スマイルを朝一番僕に見せて、日中もクラスは同じだからまた、行動をともにする。それから放課後もショウのいるバスケ部のマネージャーとしてショウを支え。
朝から晩まで一緒。離れているのは睡眠をとる時間くらい。
なんでこんな陰気臭い幼馴染に義務感を感じてるの。
まぁ、仕方ない、と心中でひとりごちて僕はショウに笑い返す。
僕がそうさせてしまっているんだ。
開放してあげたいけど、仮に今でも義務感とかなんとか理由つけて、一緒に居続けるほど大好きな相手に、隣のこの場所を誰かに譲るなんてそんなバカげたこと――できない・・・・・・できないんだよ。
「ガイ、今日も変わりなさそうだな」
「うん、ショウに鬼畜を言えるくらいにはピンピンしてるね」
「無理すんなよ」
「無理なんか、してないよ。ピンピンしてるんだもん」
隣で僕の頭を撫でるショウは僕を見ない。
「俺にだけは、全部教えてくれよ。全部」
「隠しようがないくらい一緒にいるじゃん」
僕を見ていなかったショウが、視線を僕に戻して鋭く射抜く。
「俺は、全部知りたい。寝ている間のことも、夢の中にでも俺は入っていって、ガイと一緒にいたいな」
「ええ~プライバシーの侵害ー」
「俺とガイの仲にプライバシーというものはとっくに飛び越えてんよ」
「そ、そうなの?」
うん、僕は勘違いはしないよ。大丈夫。女の子がときめきそうなことを言っているけど、僕は男だし想い合うことは望んでいない。
片思いだけ、させてくれればそれでいい。
「ガイ。ちゃんと俺を頼れよ。俺だけを必要としてくれ」
「うん。毎日日課になったショウを起こす仕事は僕だけだもんね」
「そうだぞ。ガイ以外は声すら届かねんだから、居てもらわなくちゃ俺が困る」
「はいはい、ちゃんと起こしに来るから安心しなよ」
あれ、これじゃ俺が頼ってるだけじゃん、というツッコミに一笑いしてから学校につき、あっという間に昼休みになった。
僕の取り柄は唯一勉強ができることくらい。授業は聞かなくても家でやる予習で大体は理解できてる。
だから、授業の終わりは決まって数人は僕に聞きに来る。
今日もそんな日常の一日だった。
「このxってどこから来たの?」
「ああ、これはね――」
説明がひとしきり終われば、しこりの取れた顔で自分の所属するグループへと帰っていく。
僕の存在とはそんなもの。頼られることに悪い気はしてないから、全然ウェルカムな僕。
だけど、一人の女の子は「いつものお礼」と言って手作り菓子を丁寧にラッピングされた袋につめてくれた。
初めて、異性からものをもらった瞬間だった。
「ありがとう」が不自然になっていなかったかな。普段いい慣れた言葉も正しく使えているか気になるくらい、衝撃的なシーンだった。
どうしよう。
僕は初めて、ショウ以外に、高揚を覚えた。
大好きなショウを開放させてあげられる日も、そう遠くはないのではないか。密かに期待をした僕は、手に乗る小さい重量を腕全体で感じつつ、さっき部長に呼ばれて席を外していたショウを待った。
「くっそ!!!俺がよそ見をしたせいでっ。害悪がはびこってきやがった」
廊下に設置してある掃除用具入れが大きく傾いた音がして、気になり席を立つと、急いで戻ってきてくれたショウが息を切らせて僕のところへ来た。
「なんだったの、あの大きい音は」
「ああ――、廊下で走り回ってる奴らがこけてぶつかってた」
「いつまでも子どもみたいなことするなぁ」
音の発端がわかって席につき直す僕を隣に、ショウは座らずただ僕を見下ろしてくる。
早く座らないのか気になっていると、ショウは今までみたことない感情の抜けた表情をしていた。
「ソレ――。そのゴミ。早く捨ててきなよ」
凍てつくような視線を僕が持つ小さな袋に注ぎ、他には何も映していないようだった。
「ソレ、邪魔だろ?やっぱ俺が捨ててきてやる」
半ば強引に取り上げ、無残にも握りつぶされた菓子たちは、誰の口にも運ばれずゴミ箱へ投棄された。
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