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第8話

耳だけで味わったあまりにも刺激的な出来事に、摩羅に痛みさえ覚え、平次はその場にしゃがみ込んでしまいました。 駕籠からはしばらくの間はぁはぁという荒い息遣いだけが聞こえておりましたが、少し経つと、ようやくぼそぼそと話し声が聞こえてきました。 程なくして、弛みきった褌を掴んだ弥助だけが駕籠から出てくると、きりりとした表情と声音で「仙石岬へ行くぞ!」と言い放ちました。 仙石岬といえば小さな漁港の町であり、弥助と平次は来た道を戻らなくてはなりません。そうなると当然猿を運ぶという依頼は果たせないことになりますが、弥助は迷う様子もなく、猿を駕籠の屋根へ紐でぐるぐる巻きにして結わえつけてしまいました。 そして、摩羅を痛がり恨めしい目をする平次を見遣り、「若様は鬼ヶ島へ渡る船頭を見つけりゃあまた尺八を吹いてくださるそうだ。その時はおめぇも一緒にとおっしゃったぞ」と上機嫌に言いました。 あんなに激しいのが尺八を吹くなんて上品なもんかいと思いながらも、自分の摩羅も慰めてもらえるというのなら平次に否やはありません。縛り付けられぎゃあぎゃあと喚く猿に頓着せず、二人で駕籠を担いでえっほえっほと走り出しました。 運ぶ者のはやる気持ちそのままに、駕籠は足運びの度に揺れます。すると筵の隙間から、力を失った真っ白な指先が見えました。 平次は一瞬、まさか殺してしまったのかとぎくりとしましたが、弥助の上機嫌な様子から、若様は疲れて眠っているのだろうと思い直します。 前を走る弥助の背中は汗が輝き、駕籠の揺れの合間にちらちらと見える尻の筋肉はきりりと吊り上って、男ぶりの充実を伝えてきます。 兄ぃのやつぁよほどいい思いをしたに違いないと、耳に残るくぐもった悩ましい声といやらしい水音を思い出します。 筵の隙間からちらちらと見える真っ白な指に、平次の妄想は掻き立てられてやみません。若君があの指で己の摩羅を扱きながら、平次の摩羅をうまそうにしゃぶるところを想像すれば、肩に乗せた担ぎ棒を片手で支えながらも、もう一方の手で熱くなった股間を褌の上から撫で擦らずにはおられませんでした。 ところで、誰も気にかけてはいませんでしたが、人を乗せているとも思われぬほど軽い足どりで進む駕籠の後ろを、一匹の犬が涎を垂らしながら追いかけています。その犬の鼻は、先日味わったばかりの芳醇な甘露の香りを捉えておりました。 ――やってしもうた。 重い瞼を擦り、窮屈な体勢を続けたせいで痛む腰をとんとんと叩きながら目を開けると、桃太郎は朝日の中をえっさほいさと走る駕籠の中におりました。 駕籠かきの弥助の摩羅に喉の奥を責められながら、いかんと思いつつも手遊(てすさ)びをし、結局気を遣って甘露を吐き出してしまったのだと思い出します。 幾日も洗っていないのだろう()えたにおいのする弥助の摩羅は、理想の摩羅と言うには太さが少々足りませんでしたが、褌から取り出した瞬間から硬く反り立ち、黒々とした刀身の先から絶え間なく透明な汁を垂らしておりました。 事のはじめからいきり立ち、たらたらと先走りを垂れ流すその様は、爺ばかりを相手にしていた桃太郎にとってはあまりにも新鮮でした。 舌を絡めて口の中に導けば、これ以上ないほどに反り返った切っ先は桃太郎の上顎をごりごりと責め、根元まで飲み込めば、喉奥の鋭敏な粘膜をこつんと叩きました。 喉奥への刺激が心地よくて、もっとしてくれと目で訴えながら強く吸うと、興奮した弥助が桃太郎の頭を鷲掴みにし、喉の奥を摩羅の先端でごんごんと突いてきたのです。桃太郎はその乱暴さと苦しさに、ひどく興奮しながらたまらず自らの摩羅を扱いていました。 ――私はどうやら、押さえつけられて喉の奥の苦しい場所を摩羅で責められるのが好きらしいのぅ。その上もうこれ以上は少しも入らぬという喉の奥に、子種を思い切りぶちまけられると頭が真っ白になったわ。 怪我をした蛇と弥助の摩羅に喉奥を責められた時のことを思い出すにつけ、既にそれは食事だけのための行為ではなくなっていると結論が出ます。爺婆のまぐわいを見て育ち、男女の閨事には一切の興味を失っていた桃太郎でしたが、摩羅で喉の奥を突かれることこそが悦びという、多少変わった性癖なのだと自覚するに至りました。 確信した己の趣味の悪さに落ち込むかと思いきや、桃太郎はうんうんと得心します。 それは、枯れた爺どもでは満足できぬはずよ、と。 そもそもが淫弄な性質の桃の精ですので、目覚めた快感を更に追求したくて仕方がなくなっていました。やはり太くて長くて固くて反り返った理想の摩羅を探し出し、苦しさに涙を流しても辞めずに喉奥を突き続けて貰わねばと、より具体的になった目標に決意を新たにします。 とはいえ、喉奥を突かれて気持ちよくなると、ついつい自分の摩羅を扱いてしまうのは問題です。摩羅を扱くのも甘露を吐き出すのも大層気持ちがよいので、喉を突かれるともっと気持ちよくなろうとつい手が伸びてしまうのです。 しかし、甘露を吐き出せば神通力は失せ、眠り込んでしまいます。喉の奥を摩羅で突き続け、子種を何度でも喉奥に流し込んでもらうためには、神通力を高めた状態をできるだけ長く続ける必要があるというのに、手遊びをせずにいられません。弥助の摩羅に喉奥を突かれた時も、あまりの気持ちよさに我慢ができず、褌を弛めて思い切り己の摩羅を扱いてしまいました。 どうすれば手遊びを我慢し、摩羅を長く楽しめるのかと真剣に頭を悩ませておりましたら、頭上からけたたましい獣の鳴き声がして考えを妨げられました。

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