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第9話

もし、と桃太郎が外の二人に尋ねると、猿回しの猿を駕籠の上にくくりつけているのだと答えます。そういえば猿を追い出して駕籠に乗っておるのだったわと、薄情にもようやく思い出し、猿を駕籠に入れてくれるよう二人に頼みました。 平次は凶暴だから危ないと(いさ)めましたが、当然桃太郎には勝算がありますので、構うことはないと押し切ります。それでも綺麗な顔や体に傷がついてはと心配した平次は、猿の首に巻かれた操り紐で猿の体を雁字搦めに縛ってから筵を上げて桃太郎に渡しました。 口までぐるぐるに縛られた猿は喚くこともできず、癇癪を起したようにもんどりうっておりますが、桃太郎を前に摩羅はあまりにも無防備です。霧散してしまった神通力を取り戻すために、桃太郎の体は弥助の子種をすっかり吸収して空腹になっていましたので、腹の足しくらいにはなるかと早速猿の摩羅にしゃぶりつきました。 人間に少し形は似ているものの、摩羅は小ぶりで全くもって桃太郎の好みではありませんでしたが、ふぅふぅと鼻息荒く縛られた体をくなくなとさせる猿の様子を見て、桃太郎は天啓を得たように妙案が浮かびました。 ――これだ! 試しに摩羅から口を離してみると、猿はもっともっとというように必死な目で桃太郎を見詰めつつ、腰を前に突き出してきます。悪戯に摩羅の先にふぅっと息を吹きかけると、摩羅はぴくぴくと動き、猿はいやいやをするように首を振りました。指先でつんつんと突けば、辛抱できぬといった風情で顔を真っ赤にしておりますが、もう一息刺激が足りないようで、子種を吐き出すことができない様子です。 桃太郎は満足し、にやりと笑うと、必死の形相をしている猿から遂に子種を吸い出してやりました。 駕籠の中で何が起こったかはまるでわかりませんでしたが、まるで別猿のようになった猿が出てきておとなしく駕籠の上に座ったので、弥助も平次も大層驚きました。 弥助は桃太郎に摩羅を吸われて力が漲った気はしておりましたが、吸われる前から勃っていたために、萎びた爺たちほどには神通力を感じ取っておりませんでした。また、桃太郎が甘露を吐き出して神通力が失せてしまったため、何度でも勃ち上がるという経験もしておりません。 そのため、桃太郎のことをひどく尺八がうまい寺稚児か何かだと思っておりました。 一方、駕籠の外でいやらしい声や音だけを聞いて妄想を逞しくしていた平次でしたが、その妄想の力をもってしても、まさかまさか桃太郎が猿の摩羅まで吸っているとは夢にも思っておりません。若様は助平だがきっと動物には優しくて懐かれるのだと、大層好意的な勘違いをしておりました。 そしてその駕籠の後ろを、やはり誰にも気にかけてもらえないまま、犬はひたすら追いかけていました。

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