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かりそめ(8)*
「……綺麗だよ」
教授の視線に、肌が灼けるように熱い。
漆黒の瞳が映しているのは、僕の身体だけれど、僕じゃない。
満月になる前の少し欠けた月の灯りは明るすぎて、不安になってしまう。
似ているけれど、僕と潤さんは確かに違うと、教授が気付いてしまうんじゃないかと。
そうしたら、教授は僕から離れてしまうんじゃないかって。
『伊織』と僕の名前をぎこちなく呼んでくれる教授が好き。だけど教授が僕自身を認めてくれればくれるほど、必要とされなくなってしまいそうで怖い。
だから僕は、月灯りに顔を背けて身を捩る。教授の視線から逃れたくて。
また花火の音がする。間隔を空けずに続けざまに打ち上げられて、心臓がドクドクと早鐘を打ち出した。
どうか気付きませんように。僕が僕であることに。
「愛しているよ」
教授は横を向いた僕の身体を抱き起こし、耳元にそう囁く。
――愛しているよ、潤。
そう言ってくれたように聞こえた。
胸の奥が哀しくて、嫉妬で狂いそう。だけど、だから一緒にいられる。その嬉しさの方が勝ってる。
――僕は雨宮潤として生きていくと、あの日そう決めたのだから。
浴衣を羽織ったままの身体を教授は後ろから抱き寄せて、前に回された手が下着をずらし、僕のそそり勃つ中心を握る。
「……あっ……ッ」
上下に扱かれれば、先端から溢れ出した透明の雫が、すぐに濡れた音を立て始める。
そうしながらも、うなじから肩へと口付けが落とされていく。
「――あ……、う……ッ……ん」
胸の尖りを弄っていた指が喉元へと這い上がり、顎を捕らえられて肩越しに唇を奪われる。
熱い舌を絡め合わせて、至近距離で漆黒の瞳に見つめられ、上下する手に急速に追い詰められていく。
「……ッ、ん……、ま、って……」
唇が僅かに離れた隙間から、なんとか訴えると、教授の手の動きは少しだけ緩やかになった。
「……何?」
「……浴衣、汚れちゃう」
乱れた浴衣の裾が腰から脚に絡まっていて、このままでは確実に汚れてしまう。僕は腰を浮かせて纏わり付く布を取り払おうとした。
「構わないよ」
だけど教授は気にすることもなく、僅かに浮かせた僕の腰を引き寄せて、上下させる手の動きを速めていった。
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