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かりそめ(7)*
「伊織、大丈夫か?」
気遣う声に、僕は慌てて顔を上げ、無理やりに笑顔を作る。
「すみません、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけ……」
「本当に?」
屈んで僕に目を合わせ、心配そうに頬を包んでくれる優しい手。
そうしている間にも、打ち上げ続けられる花火の音に焦燥感が募っていく。
「やっぱり窓を閉めて、中に入ろう……」
「――ま、待って」
窓を閉めようと立ち上がりかけた教授に、咄嗟に追いすがるように抱きついて引き留めた。
せっかく教授が、一緒に花火を見に行こうと誘ってくれたのに。
――『気分だけでもと思ってね』と、僕に大切な浴衣を貸してくれたのに。
昔の、遠い過去の、自分の中ではもうとっくに消化できているはずの、こんなことくらいで、教授との時間を壊したくなくて。
「……伊織?」
「ぎゅって、してください……」
この腕の中で、好きな人の匂いに包まれていたら、花火の音なんかで心が騒ついたり苦しくなったりなんかしない。
背中に回った教授の手が、力強く僕の我儘を聞いてくれて、ドキドキと心臓が煩く動き出す。
逞しい胸にぴったりと密着した僕の耳には、教授の鼓動も同じように早くなっていくのが聞こえてきた。
――教授も僕と同じようにドキドキしてくれてる。
そう思うと嬉しくて、僕も教授の背中に回した手に力を込めて、ぎゅっとしがみついた。
「……本当に君は……」
耳元に色を含んだ低い声が落とされて、耳朶を食み、熱い息が吹きかけられて、身体の奥に残っていた熾火が煽られてゆらゆらと炎を上げ始める。
「……あ……っ」
ゆっくりと広縁に押し倒されて、教授の顔の後ろに夏の夜空が広がっているのが見えた。
もう一度深くキスを交わして、唇は首筋から胸元へと下りていき、懐を大きく広げられて胸の尖りに熱い舌が這う。
「っ、あ……っん」
先端を転がされ、時々強く吸い上げられて、そこから生まれる甘い快感に、堪らず身体を撓らせた。
そうしながらも教授の手は下肢へ伸び、浴衣の上前をめくり太腿を撫でていく。
僕は教授の愛撫に、声を漏らさないように唇に手の甲を押し当てて、広縁の上で泳ぐ。
さっき着たばかりの浴衣は乱れ、夏の夜の生暖かい風が肌を掠めた。
教授の指は、最後に帯と腰紐を解き、浴衣の前を開いていく。
――愛する弟のためだけに、教授が染めた浴衣を。
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