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かりそめ(6)*

 啄ばむようなキスをくれてから、見つめ合ったまま教授の指が僕の唇に触れる。  その指に軽く唇を開かされて、教授の舌が咥内に滑り込んでくる。 「……ん、ん……」  すぐに僕の舌は甘く絡め取られ、咥内で縺れ合い始める熱。  情欲に濡れた漆黒の瞳は、僕に視線を合わせたまま決して離れることはない。  ――こんな時、潤さんはどんな表情をするんだろう。どんな声を出すんだろう。  顔も見たことのない、僕にそっくりな少年を思い浮かべて真似をする。  教授の指が僕のうなじに触れて、引き寄せられながら唇を合わせる角度を変えると、口付けはもっと深くなる。  教授に触れられているうなじが熱い。  もうそれだけで、身体中に痺れるほどの快感が駆け巡っていく。  打ち上げられる花火の音と、「伊織……」と、耳元でぎこちなく囁く教授の声が重なる。  ――今は、その名前で呼ばないでほしい。今は、教授が愛するただ一人の人になりたいから。  口付けを交わしながら、うなじに触れていた指が前へと滑り落ち、衿の合わせの間へ挿し入れられる。 「……あ、っ……」  指先が胸の尖りをただ掠めただけなのに、途端に僕は堪えきれず、重ね合わせた唇の隙間から声を漏らした。 「……ん……ッ……」  指の腹で優しくそこを撫でられて、身体の奥に火が灯る。漏れてしまう声を教授に聞かれたくなくて、僕は教授の肩に顔を埋めた。 「……伊織」  教授の声の後ろで響く花火の音が、僕の気持ちを焦らせる。  教授の浴衣の袖をギュッと握り、僕は快感と不安を逃そうとしていた。  優しく髪を撫でられて、宥めるように頭の上にキスが落とされる。  ――潤さんも、こんな風に愛されたのだろうか。壊れ物を扱うように、優しく、優しく。  衿の合わせから挿し入れられた掌がもっと深くに潜り込み、胸全体を包んで、教授の熱い体温を伝えてくる。  尖った小さな粒を摘まみ上げられると、電気が走ったような痺れが体内を駆け抜けた。 「……っ、はっ……ん」  鋭い快感に、思わず教授の肩に埋めていた顔を跳ね上げると、また唇が塞がれる。  熱を纏った舌を絡め合い、薄く瞼を開けると、艶やかに濡れた漆黒の瞳が色情に揺れていた。 「困ったね……」  唇を触れ合わせながら、教授が吐息混じりの甘い声で囁く。 「どうにも、抑えがきかなくなる……」  リップ音を鳴らして唇を離した教授は、スッと立ち上がり、すぐ後ろの障子を開けて寝室に使っている部屋に入っていく。 「え……?」  (――どうしたんだろう? もうこのまま布団に行くということなのかな)  だけど、そう思いながら自分も立ち上がろうとしたところで、教授が戻ってきた。 「どう……っ」  ――どうしたんですか? と訊こうとしたその瞬間、ひと際大きな音が連続で響く。身体の芯を震わせるような振動に心臓が跳ね、側に立っている教授の脚に、思わずしがみ付いてしまった。

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