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かりそめ(10)*
「このままここで続きをしてもいいかい?」
耳元に囁かれて頷くと、教授は浴衣の袂から小さなチューブを取り出した。
(――さっきは、これを取りに行ってたのか……)
それはゼリー状の潤滑剤だった。
指に纏わせたゼリーは、中に入ると体内の温度で蕩けて湿潤感が広がっていく。
「……っあ、はぁっ……」
しっとりと濡らされた内壁が、もっと硬くて太いものを欲しがって、誘うように収縮した。
「……はやく、欲しい……」
もう一度催促するように言葉を零して、教授のを上下させる手を速めていく。
「……あまり煽るな」
少し切羽つまったような教授の声と共に熱い吐息が耳を掠め、中に挿っていた指が引き抜かれた。
教授の肩に手を置いて腰を浮かせば、大きな手が双丘を割り開き、熱く濡れた切っ先が後ろの入り口を突つく。
「あ……っ」
それだけで僕の淫らな身体は感じて、甘い痺れが背筋を駆け抜ける。
早く欲しくて、強請るように腰が揺れてしまうのを堪えて、教授の首にしがみ付いた。
だって、高校生の時に亡くなった潤さんが、僕みたいにはしたなく教授を求める筈がない。
「どうした? そんなに力を入れると挿らないよ」
低く響く声に強張った身体から力が抜ける。
教授に腰を掴まれて、ゆっくりと下へと身体が落とされていく。
「んッ……あぁッ!」
先端が埋め込まれて、教授が僕の中の細い路を押し広げながら挿ってくる感触に、思わず声をあげてしまう。
少し苦しくて、熱くて、ぞくぞくする。
教授の浴衣の肩を握る指に、知らずに力が入ってしまう。
微かに教授が吐息を零したのが聞こえてきた。
たとえ心は他の人のものでも、教授が僕の身体で感じてくれているのが嬉しい。
「あ……ァ、……ンッ……は……あッ」
相変わらず聞こえてくる花火の音は、僕の声が掻き消してしまう。
緩やかな抽挿から、腰を掴まれたまま下から激しく突き上げられて、僕の身体は教授の膝の上で踊るように跳ねていた。
身体の奥深くを教授の熱が押し上げて、融けてしまいそうに熱い。
漆黒の瞳が淫らな声で喘ぐ僕をじっと見上げていて、快感と不安な気持ちが交差する。
ちゃんと僕は、潤さんを演じれているだろうか。
教授に嫌われてしまわないだろうか。
後頭部に回った手に引き寄せられて、下から噛み付くような口づけをくれる。
「ん……ッ、……んッ」
僕の咥内を翻弄しながら下から突き上げてくる熱に、感じるところを的確に攻められて、脈打つ自身の水位が増していく。
「……は……ぁッ……、ん……、ンッ……」
重ねた唇の隙間から零れる僕の声と、教授の荒い息遣い。
強すぎる快感から逃げを打ち、広縁に降ろした足に体重を載せると、板張りの床が軋む音が鳴った。
身体の中を駆け巡る熱に、教授が好きという感情が込み上げて溢れていく。
「……あ、ッ……、せん」
その瞬間響き渡った連続で上がる花火の音に、思わず言ってしまいそうになった言葉を思い留めた。
今、教授に抱かれているのは、僕じゃないのだから。
初めて教授に抱かれた日から、それは自分で決めたことだった。
「……兄さん、……あ……っ、あ、……ンッ」
最奥を強く貫く熱に言葉はそこで途切れて、瞼の裏を閃光が走る。
ビクビクと腰が震えて、体内を巡っていた欲を迸らせた。
少し遅れて、僕の中で教授の躍動する熱が弾けて広がるのを感じた瞬間、教授の唇から僕の名前が零れ落ちるのを聞いた。
「……伊織……」
目頭が熱くなる。
――どうして……、僕の名前を呼ぶの。
鳴り止まない花火の音が僕の気持ちを不安にさせていた。
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