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かりそめ(11)*

 僕が潤さんに似ているから……、だから教授は僕を抱いてくれる。  だから僕は、教授の傍にいることができる。  それだけが教授と僕を繋ぐ、ただひとつの理由だった。  ――――僕は逃げない。二度と離れなたりしない。  あの時、僕は教授にそう誓ったのに。  ――――ずっと一緒に居させて……弟さんの代わりでいいから。  新しい季節の訪れと共に、あの時、僕は教授の手で殺されて、そして生まれ変わったつもりでいた。 『伊織』と、ぎこちなく呼んでくれるようになったのが、少し擽ったいけど嬉しくて。  でも、教授の中の僕が、僕に戻っていってしまうのが怖かった。  いつだって僕の望みは、ただひとつ。  たったひと時でいいから、教授に愛されるただひとりの人になりたいと願っていた。  たったひと時でいいから、僕は、雨宮潤になりたいと願っていた。 「伊織?」  優しい手が僕の背中を抱きしめて、甘く低く響く声が、頭の上から落とされて、一層激しく打ち上げられる花火の音に重なった。  居たたまれない気持ちが押し寄せてくる。 「……あ、浴衣の汚れを早く落とさないと……」  そう言って、繋いだ身体を離そうとした僕を、教授が背中に回した腕に力を込めて引き留めた。 「……あ……ッ」  また身体が深く沈み込み、まだ中にいる教授の形をはっきりと感じてしまう。 「浴衣は、いいから」 「……でも……、シミになってしまったら……」 「いいよ。この浴衣は、今年で最後にするから」 (え……?)  それは、どういう意味なんだろう。  この浴衣を着ても、僕が潤さんの代わりになれなかったから?  もう来年は、僕がこの浴衣を着る必要がないということ?  心臓が痛いくらいに早鐘を打ち始めて、不安な予感が込み上げてくる。  教授の口から出る、次の言葉を聞くのが怖かった。 「……伊織」  名前を呼ばれても、俯いたまま顔を上げることも出来ずにいる僕の髪を、教授の指が梳くように撫でていた。 「もう……、潤の真似をするのは、やめなさい」 「…… !」  心臓が止まってしまったように苦しくて、僕は声を失ってしまう。代わりに堪えていた涙が次々と溢れて、教授の浴衣の肩を濡らしてしまっていた。

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