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かりそめ(12)
「……どう……、して……」
僕は潤さんとしてじゃなければ、ここにいる理由がなくなってしまう。
「君が潤の真似をしようとするのは、俺のせいなんだね」
教授の中の僕が、完全に僕に戻ってしまったら、僕はもうここには居られない。
「本当にすまなかった……。あの日、君を抱きながら……俺はまるで潤をこの腕に抱いているような錯覚をしてしまっていた」
――謝らないで……。
教授の腕の中で、僕は俯いたまま何度も首を横に振った。
僕はそれでも幸せだったんだから。
優しい指が、僕の髪をゆっくり、ゆっくり、何度も撫でてくれる。
きっと、優しいこの人は僕が傷つかないようにと、そうしながら次の言葉を探しているのだろう。
僕と潤さんは違う。どんなに真似をしても教授の心は変らない。
だから、こんな関係はもうお終いにしよう――――。
そう言われてしまうのが怖い。
それを言われたら、僕はもう、どうしようもなくなってしまう。
「伊織、……潤はね……」
頭の上から落とされる言葉に、胸がざわめく。花火の音がひと際大きく響きだした。
花火の夜は、いつも悪いことが起こる。あの音が、昨日まで幸せだと思っていたことを全て奪い去っていくような気がして、僕は教授の肩に埋めた顔を上げることができなくなる。
「……潤の遺体はね、見つからなかったんだ」
(――――え……?)
だけど、予想もしていなかった“次の言葉”に、僕は驚いて息を詰めた。
「だからね……俺はずっと、潤が死んでしまったことを認めたくなかった」
辛そうに言葉を零しながら、教授の手が頬を撫でてくれる。そっと視線を上げると、優しい眼差しに見つめられた。
「君が大学に入学してきた時、本当はどこかで生きていた潤が、俺に逢いに来てくれたのかと本気で思ってしまった。それほど君は潤に似ていたんだ」
――潤は、俺が殺してしまったようなものだったのにね……と、自嘲するような溜息をつく。
「だけどね……」
そう続けながら、教授は僕の身体を包むように抱き締めてくれる。
「君は、潤じゃない」
「―― !」
その言葉は、まるで最後通告のように思えて、僕は教授の浴衣の背をギュッと握り、必死にしがみ付いた。
もうお前なんて必要じゃない。そう言われたとしても、それでも離れたくなかった。
「伊織……」
低い声が優しく柔らかく耳に届き、両手で頬を包まれて、情けなく涙に濡れた顔を上に向かされる。
「君は潤とは違うよ。……潤は、こんなに俺のことを愛してはくれなかった」
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