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第1話プロローグ

 卯月(4月だが旧暦なので現在の5月)だというのに、その日は朝から荒れ模様だった。ようやく若葉が濃くなった木々も、荒れ狂う暴風雨に悲鳴を上げ続けていた。  その最中、里に帰っていた登華殿(とうかでん)の女御が(にわか)に産気付いた。 「大納言さま。この嵐では弓弦(ゆげん)も思うように鳴りませぬ!」  女御の父君 押小路(おしのこうじ)の大納言に仕える武士(もののふ)たちが、ずぶ濡れになって悲鳴を上げた。僧侶たちの読経が一際高くなった時、女御の悲鳴と共に激しい赤子の産声が響いた。  するとどうであろう。今まで荒れ狂っていた風も雨も、嘘のように止んでしまったのだ。 「これはまた、(くす)しき事があるものぞ」  誰かが呟いた。それに答えずに押小路の大納言はいそいそと、生まれたての御子を見に行く。 「おめでとうございます、大納言さま。男宮さまのお誕生にごさいまする」  覗き込むと先程の産声で疲れたのか、生まれたばかりの生命はよく眠っていた。  ふと見ると左手をしっかりと握り締めている。そっと開かせると、何と一粒の美しい真珠があった。それを取り出すと生まれたばかりの王子は声をあげて笑った。

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