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儚い感情 22
「このままでいいから、話聞いて…お願い、します。」
「このままは…いやだ。」
「じゃあ……」
そう腕を緩めてくれたから……油断してしまったんだ。
俺はそういう意味で言ったわけじゃないのに。
なのに気付いたら、正面に向きなおされ、
気付いたら、洵也の顔が目の前にあって、
気付いたら、
────…キスされていた
「……ッ…んんッ…ちょっ…」
忘れた筈のその熱は意図も簡単にぶり返してくる。
あいつとは…────星川とは違う……熱量。
唇の温度も、息継ぎの仕方も星川とはまるで違う。
「……こ…ッ…たろうッ…」
だけど、どこか真っ直ぐなところは同じ。
唇を少し離し名前を呼び、また唇を重ね合わせ、気持ちを押し付けるようにその行為は繰り返された。
ダメだ……
身体に力が入らない。
「や……ダメ……ッ……」
「ダメだって言う割には気持ちよさそうだよ?」
そして崩れ落ちる寸前で唇が離れて、洵也が茶化すようにそう言いながら目の前で俺を見下ろしていた。
「…ッ…ふっ…ふざけるなっ!今さらなんなんだよっ!」
「やっぱり怒ってるよな。あんな別れ方したんだもんな。」
あんな別れ方だと?
誰のせいだと思ってんだよ。
洵也の腕を振りほどいて、逃げるように窓際に移動すると、落ち着かない気持ちを隠すようにタバコを取り出す。
「おれにかまうなっ、帰れっ!!」
「嫌だ。」
「帰れ……」
「嫌だ!俺はあの時、本当は別れたくなかったんだ…でもそれしか方法がなくて…だからっ、今でも好きなんだよ…小太郎のこと。」
強引に一方的に想いを告げられ、だからってどうしろって言うんだよ。
「……俺はもう二度と本気で人を好きにならないって決めたんだ。だから、今さら遅いんだよ。」
朝比奈が言っていたことがふと頭を過る。
だけど、それが本当でももう無理だ。
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