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第1話「アルバイト」
「男性歓迎って何だよ。」
使用人:七瀬 貝 20歳
大学1年の夏休み
登録している派遣会社から、男性歓迎を不自然に強調した家事代行アルバイトの募集メールがあった。
「条件は悪くない…」
【時給】1500円
【勤務日】平日のみ週3日
【時間】1日4時間
高時給。短時間。休日出勤なし。
小遣い稼ぎにはちょうど良い案件だった。
合わなければ別の仕事を紹介してもらえば良いと軽い気持ちで応募したところ、難なく採用通知が送られてきた。
「七瀬っす。宜しくっす。」
アルバイト初日、玄関先で挨拶を済ませた。ずり落ちた眼鏡を中指で押し上げながら、まるで品定めでもする様な目つきで男が言った。
「高橋です。やり取りは基本メールで。」
雇用主:高橋 広人 44歳
都内の高級マンションで一人暮らし。会社員。普段は自宅PCで在宅ワークをしている。
寝起きなのか、白髪混じりの短い髪は、所々が跳ねていて、着古した白いTシャツとグレーのスウェットパンツ姿で出迎えられた。
高橋は挨拶と各部屋の案内を終わらせると、そそくさと居室に姿を眩 ませてしまった。監視の目が無いのはありがたい事だ。
「ふぅ〜、怖わっ。」
仕事内容は掃除と洗濯がほとんどで、食事は惣菜弁当や冷凍食品等の買い出しのみだった。掃除は好きだが、料理はあまり得意ではないので助かった。
~三ヶ月経過~
仕事は思ったより続いていた。漸 く暑さも和らいだと思ったら、今度は不安定で鬱陶 しい天気が続いていた。
その頃には、すっかり手際もよくなり、その日はかなり時間が余った。部屋のドア越しに次の仕事の指示を仰ぐ。
「何か他にすること無いっすか。」
するとポケットのスマホが振動し、『掃除』と一言メールが送られてきた。
「コミュ障かよ(笑)」
『やり取りは基本メールで』と言われたのを思い出し、すぐさま返信をした。掃除が必要そうなところを何ヵ所か送ると、また一言返事が帰って来る。
なぜかそれがツボにはまり、天気や、食べ物の話題等、業務に関係の無い内容も送りつける様になった。
同じ家の中で、メールのやり取りを繰り返していくうちに、徐々に高橋との距離も近くなった。
いつの間にか居室にも入れてくれる様になり、飲み物を持っていったり、ゴミ袋を交換したりするうちに、部屋の掃除も任される様になった。
そして、部屋に隠されていたドールのコレクションを目にする事になる。
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