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第11話「ドール」

仕方なく高級ベッドを占領する。寝心地は最高なのに、どうも寝付きが悪い。喉が乾き、こっそり高橋の寝るソファーがあるリビングへ水を飲みに行った。 「七瀬くん?」 物音に気付いたのか、高橋も目覚めた。眼鏡のない素顔が少し幼く見える。二人分の水を用意してソファーの前のローテーブルに置いた。 「良かったらどうぞ。」 高橋は水には一切手をつけず、何かを考えている様だった。空になった自分のグラスを片付けようと、席を立とうとした時。 「七瀬くん、もううちには来ないで下さい。」 「えっ!?なんっすか、それ?」 突然の解雇通達とも取れる発言に、思わず声が大きくなる。先程の冷たい態度と言い、思い当たる事と言えば前回の事しか無い。 「これは君の為でもあるんです。どうか、聞き分けて下さい。」 「この前の事が原因っすか。」 あの時は高橋だって拒否しようと思えば出来たはずだ。まったく気が無いようには見えなかった。 「それもあります。でも、これ以上は私が限界です。」 高橋は静かに立ち上がり、何も言わずリビングを出て行こうとした。逃がすものかと、後を追いかける。 「ついてこないで下さい。」 「嫌っす。ちゃんと話しましょう。」 高橋は大きく溜め息をついた。ドアの前でパタリと立ち止まり、振り返ると両手で肩をつかまれた。 「目を閉じて下さい。」 言われた通りにすると、高橋の息が頬にかかり唇に柔らかい感触がした。 「…んっっ…ん」 強引に入ってくる舌の温かさに、胸の奥がどんどん熱くなる。自らも舌を絡め受け入れた。 「…んくっ…はぁっ。」 この感情が何なのかは分からなかったが、本能の(おもむ)くまま高橋を求めた。 「七瀬くん、愛しています。」 今は、そんな陳腐な言葉は欲しくない。無性に腹ただしくなり、挑発的な誘い文句が口を衝いて出る。 「俺の事、もっと自由(すき)にして良いっすよ。」 高橋が求める以上の事、ドールに出来ない事だって自分には何だって出来る。脇腹から下半身に向けて手を伸ばした。 「やめて下さい!」 手首を捕まれ制止される。愛していると言ったのに、何が気に食わないのだろう。 「七瀬くんには、ドールとして側に欲しいです。」 ドールと言われて納得がいった。自分が欲しかった言葉は、まさにこれだ。いつの間にか、高橋のドールである事が自分にとって一番の誇りだった。 窓からは朝陽の光が射し込み、新しい一日が始まろうとしていた。小鳥達のさえずりを耳にしながら、口づけをした。 「宜しくお願いします。ご主人様。」 END

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